阪神中野拓夢内野手(26)がプロ初の逆転サヨナラ打を放ち、3日ぶりにDeNAと並ぶ首位に再浮上させた。

1点を追う9回2死満塁でカウント2-2。あと1死、あと1球で岡田監督にとって第1次政権の07年8月7日以来、5733日ぶりにBクラスに転落する一戦で、守護神栗林から起死回生の一撃を左中間に運んだ。WBCの優勝トロフィー展示が甲子園歴史館で始まった日に、虎の日本代表が侍魂を発揮した。

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悲劇の完封負け寸前、中野が一振りで歓喜に変えた。9回表に均衡を破られ、重苦しい雰囲気で始まったその裏。仲間が2死満塁をつくり、しびれる展開で回してくれた。もう打つだけだ。広島守護神の栗林に3球で追い込まれたが、粘りまくった。4球目のフォークを見極め、4球連続ファウル。満員の大観衆が1球ごとに揺れた。そして9球目。フォークを拾って左翼手の頭を越した。

中野 正直、打った瞬間はもう越えるかわからない。『頼む。越えてくれ』っていう気持ちで走ってました。クローザーをみんなでつないでつないで、なんとか打つことができました。

開幕2戦目のDeNA戦以来、甲子園では今季初のサヨナラ勝ち。中野自身プロ初のサヨナラ打で、しかも逆転の冠つきという最高の形で決めた。岡田監督にとって、負けていれば第1次政権07年8月7日以来、5733日ぶりのBクラス陥落の危機。指揮官は勝利の瞬間、口を開けて万歳し、満面の笑みで中野と握手を交わした。「中野が打ってくれると信じるしかなかった。横浜ではちょっと早めに追い込まれるのが多かった。今日はだいぶ振っていっとった」とたたえた。

「2番」には“教科書”があった。同じWBCの侍ジャパンメンバーで、御利益がありそうな顔として「近藤大明神」の呼び名もあるソフトバンク近藤だ。「お手本にしているといえば、近藤さんの2番の打席。積極的に行くところはいく、ボールを見るところは見ることをベンチから見て、使い分けているとわかった。自分もシーズンで2番を打つ上で積極的にいける部分は粘っていきたいと思った」。WBCは、世界一の「2番」を肌で学んだ貴重な期間でもあった。この日の最終打席は「中野大明神」ばりの一打でチームを救った。「ファウルを打ちながら、いやらしい打席を送れた」と納得顔だ。

劇的な勝利でチームは3日ぶりにDeNAと並ぶ首位に浮上。この日はWBCの優勝トロフィーが甲子園歴史館で展示された初日でもあった。「トロフィーを飾っていただける日に、自分がサヨナラヒットを打てたので、本当に縁を感じます。明日以降は投手陣に負担をかけないように頑張っていきたい」。WBCでの財産を生かし、輝きを放ち続ける。【三宅ひとみ】

◆中野は自身初のサヨナラ打。今季甲子園4試合目でチーム初適時打でもあった。これまでは犠飛か内野ゴロの間の得点のみだった。今季初適時打がサヨナラ打となった。