ソフトバンク藤本博史監督(59)が本音でチームを語る企画「藤もと亭」。第3回のテーマは「愛弟子・柳田の秘話」です。指揮官は11年に2軍打撃コーチとしてソフトバンクに復帰し、同年のルーキーだった柳田悠岐外野手(34)を熱血指導。フルスイングのよさを消さず、とことん練習に付き合うスタイルで球界の顔に育てました。長年の師匠が、愛弟子の素顔を明かしました。【取材・構成=只松憲】

 

柳田は現在、全試合にスタメン出場で打率2割8分4厘、9本塁打、30打点

藤本監督 本当にチームを引っ張ろうとしてくれている。自分が打てなくてもベンチで声を出してくれてますよ。ここまでしっかりやってくれてるよね。

藤本監督は11年に2軍打撃コーチとして入閣。10年ドラフト2位の柳田とは“同期入団”だ。

藤本監督 あれから12年たつけど、まさかこういう形で1軍で一緒にやるとはね。入団した年から思い切りが良かった。天然な性格で、どんな選手になるのかいい意味で未知数だった。しっかり成績を残してチームの顔になったし、すごく努力をしている。みんなが見ていない時にバット振ってたりね。考えて野球をやっている。野球に対しての取り組み方はすごく立派だと思いますよ。

ルーキー柳田にはフルスイングを貫かせた。

藤本監督 王会長が柳田を見に来た時に『彼はスイングがすごい。絶対に当てさせるようなバッティングはさせないように』って言われました。将来はコンタクト力も付けないといけないけど、まず1年間はフルスイングをテーマに2軍でやらせたのは覚えてるよ。

何度も度肝を抜かれた。

藤本監督 2軍ではレフトに引っ張ったホームランの打球を、三塁手がジャンプした。そんな弾道でも柵越えをしたこともあった。本当にヘッドスピードが速い。あとは京都と沖縄の球場で、超逆風の中センターのバックスクリーンを越したこともあった。それは印象的で覚えてますね。

「超人」とも言われる柳田には意外な素顔とは

藤本監督 弱音はいつも吐いてました。打てない時の柳田の口癖は自分のことを「もうゴミじゃ」って言うことだった。広島弁でね。その時に僕は「とりあえずやろうや」って声をかけるしか言えなかった。野球をするのは柳田本人だからね。「ゴミじゃあ、ゴミじゃあ」言うても、しょんぼりとするんじゃなしに、きちんと練習はしていた。

昨オフは、キャプテン続投に難色を示していた柳田を説得した。

藤本監督 「キャプテンやってくれ」。「やりません」。「キャプテンやってくれ」。「やりません」。その繰り返し。最後に「頼むからやってくれ。お前しかおらん」って言ったら、柳田もなんぼ言うても無理やろなって思ったから「分かりました。やります」って言ったんじゃないですかね。キャプテンってチームを引っ張らないといけないし大変な部分はある。柳田は口で引っ張るタイプではないけど、野球に対する姿勢はすごいよね。ティー打撃だって1球目からフルスイングでしょ。フリー打撃にしても、普通は1球目はバントで球筋を確認したりするけど、そういうのはしない選手。とにかく手を抜かないということを、若い選手も参考にしてほしい。

もう1度、12年前を思い出した。

藤本監督 柳田がルーキーの時、2軍の試合が終わったら毎日1時間つきっきりで打たせた。柳田をグラウンドに引っ張ってね。でも今はできない。なぜかと言うと、あの時より今は1球1球思いきって誠心誠意振ってるからね。特打でも20本打ったらハァハァ言うとる。それだけ1球1球力強く、万振りで練習に取り組んでる。若い子は柳田みたいなスイングはできないかもしれないけど、そういう心意気でバットを振る姿を参考にしてほしい。

「愛弟子」の飛躍は当然うれしい。

藤本監督 僕が1軍監督になった時、柳田と通算成績の話をしました。僕の成績なんてたかが知れてるけど、通算105本塁打。他にサイクルヒットをやってるとか、ヒット数とか。柳田が「監督って成績どんなんですか」って言うから数えたら全部抜かれとるわ。まぁ当然や(笑い)。サイクルヒットもやられてるし。本当に素晴らしいよね。どんどん成績を残してくれてうれしい。一緒にホークスに入った選手だから、そういう気持ちはあるよ。

 

◆藤もと亭 98年の現役引退後に福岡市中央区平尾で開業した居酒屋。正式名称は「うまいもんや 藤もと亭」。藤本監督がオーナーを務め、新鮮な魚料理や野菜など季節にあわせたメニューが人気だった。「元プロ野球選手の気さくな店主がいる」と話題になり、多くの野球ファンが集った。11年からソフトバンクの2軍打撃コーチに就任するため、10年12月で閉業。