近畿学生野球2部リーグから、運命のドラフト会議を待つ人がいる。

太成学院大・田中大聖(やまと)内野手は身長178センチ、92キロの巨漢ながら、足の速さは50メートル走で6秒を切る快速の持ち主。ゴルフ練習場を改装した堺市内の打撃練習場「通称・鳥かご」で打撃を磨いてきた。

本格的にプロ入りを目指したのは大学3年の夏だ。 打者として山形の鶴岡東に入学した。強肩が武器で2年に監督の勧めで投手に転向。3年夏に甲子園のメンバーとして背番号18をもらったが、聖地ではブルペン投球のみに終わった。

大学入学直後の2020年春はコロナ禍で野球部の全体練習がなかった。「体作りは早いうちに」と1人でジムに通い、肉体改造に着手。1つのことを専門的に、じっくりと向き合う性格が相まって、入学時の77キロから体重は20キロ近く増量。いつしかウエートトレーニングのスクワットは、200キロの怪力を持ち合わせるようになった。

出場機会に恵まれ「野球を始めた小学生の頃の、純粋な気持ち」を思い出した。中学、高校ではレギュラーで勝負することがかなわなかったからこそ、2年秋にリーグ戦を完走すると、次第に自信をつけていった。

3年春、同連盟1部の大阪観光大・久保修(現広島)との出会いが転機となった。「おまえが来年プロにいかなあかん」。その当時、選抜チームの一員として肩を並べた2人。2部で戦う田中にはほど遠い存在だった。「久保くんは1部じゃない僕にも、意見を求めてきてくれてすごく優しくて。『オレがプロにいけたら、おまえもいけるやろ』って。可能性はゼロじゃないと感じました」。

勇気づけられた田中は、本格的にNPBからの指名に向け、スタートダッシュを切った。専属のトレーナーをつけ、練習後のケアは毎晩2時間近く注いだ。「取り入れる前とは、体の疲労感が違います」。

継続力とハングリー精神の強さも自慢。「体のことで言い訳したくない。身長もない中で、ほかで補うしかない」。さらに走力アップに励み、試合で走り込むラグビー選手にならったトレーニングが功を奏し、50メートル走は高校時代より0.5秒短縮に成功した。

次の舞台で目指すのはトリプルスリー。「憧れは、糸井嘉男さん。打って、走って、守っていい印象とバランスのいい成績でファンに印象を残したい」。幼少期は、糸井のユニホームを着て声援を送り続けた。

「野球のレベルが高い環境じゃなくても、久保くんとトレーナーさんの出会いのおかげでここまで頑張れた。僕は運がいい」。

環境にひるまず努力を続けた男は、“次世代の超人”として名をとどろかせたい。【中島麗】