ひそかに阪神岡田彰布監督の胴上げに注目していた。回数ではない。選手やコーチ、スタッフの体の向きが気になっていた。

18年ぶりの「アレ」を達成した際はセ・リーグ優勝回数にちなんで6度、宙を待った。38年ぶりの日本一まで上りつめた今回は5度、体が浮いた。

「1回目で慣れたのか、だいぶ上がってましたね。全然違いました」

指揮官は日本一会見で変化を強調したが、変わらなかった部分もある。円を作った選手たちの体はまたも皆、中心を向いていた。

リーグ優勝時の胴上げを目に焼きつけた時、過去の記憶との差異に気付いた。胴上げの中心地とは逆のセンターカメラを向いてジャンプするなど、“個別行動”を楽しむ選手が23年阪神には1人もいなかった。

なんとなく興味深くて取材したところ、謎はあっさり解明できた。選手やスタッフは胴上げの一体感にもこだわり、事前にベストな形を共有していたそうだ。

結果、誰1人欠けることなく全員が円の中心を向き、歓喜の瞬間を分かち合った。2度の胴上げを確認して、“つなぎ”と“一丸”を重視してきた23年岡田阪神らしい光景だと妙に納得した。

仲間と喜びを共有するという点では、試合後の「フライング乾杯」も今回また開催された。

リーグ優勝決定の夜はシェルドン・ノイジーが甲子園クラブハウスに缶ビール150本近くをサプライズで準備していた。

「だってビールかけ会場にあるビールは飲むためのモノではないだろ? 1年間ともに戦った仲間と早く喜びを分かち合いたかったんだ」

そんな助っ人の感情に賛同したのか、日本一決定直後は前回を上回る本数が用意されていたらしい。

原口文仁やノイジー、西勇輝、糸原健斗が中心となって美酒を準備。京セラドーム大阪から祝勝会場に向かう直前、チームバス内で缶を掲げる選手たちの姿はほほ笑ましくもあった。

胴上げにフライング乾杯…。だからこのチームは強いのかと、なんだか合点がいった。【野球デスク=佐井陽介】