<日本シリーズ:西武5-0巨人>◇第4戦◇5日◇西武ドーム

 西武先発の岸孝之投手(23)が、日本シリーズ初の毎回奪三振、初完封勝利を達成した。負ければ王手をかけられる重圧の中、シリーズ初登板でも堂々たる投球で巨人打線をわずか4安打、三塁も踏ませず10奪三振で沈黙させた。プロ2年目で今季12勝のチーム勝ち頭の右腕は、大舞台で147球を投げ抜き、巨人に傾きかけた流れをもう1度手元に引き寄せた。

 細身の体がしなやかに躍動した。180センチ、68キロの岸が大仕事を成し遂げた。初登板の日本シリーズで、毎回の10奪三振、4安打完封で巨人打線を圧倒した。「やっとチームに貢献できた。本当に疲れました」。試合後、長い西武ドームのビクトリーロードを駆け抜けると熱戦を思い出したように足がガクガク震えた。

 序盤から飛ばした。初回2死一塁で4番ラミレスを迎えるとスイッチが入った。カウント2-2からの8球目。物おじせずに懐に投げ込んだ140キロは手元で伸びた。「今日は最後まで直球が走っている手ごたえがあった」。初回に強打者を空振り三振に仕留めたことで自信が芽生えた。

 左打者6人をそろえた相手打線に落差あるチェンジアップとカーブを織り交ぜ的を絞らせなかった。小笠原、ラミレス、李の主軸3人から計6奪三振。3度二塁まで走者を進められたが三塁は踏ませなかった。シリーズでの毎回奪三振は81年の西本聖(巨人)以来2人目。毎回奪三振と初完封を成し遂げたのは史上初。「出来過ぎ、まさかですよね」。照れたように謙遜(けんそん)した岸だが、最後まで冷静に勝負どころを見極めた内容が光った。

 10月18日のクライマックスシリーズ(CS)第2戦(日本ハム戦)ではプレーオフ初登板の緊張から腕が縮んだ。4回5失点でKOされていた。もともと緊張しやすく、シーズン中も登板直前に吐き気をもよおす繊細な性格の持ち主だが、この試合は違った。「今日は不思議と緊張しなかったんです」。

 試合前に渡辺監督から魔法をかけられた。「普段の岸を出せば何とかなる」。監督には、2月の春季キャンプ中に「今年の岸には何も期待しない」と突き放された。当時はあぜんとした岸だが、後で気づいた。空回りして調整を崩さないように助言してくれた親心。前回登板でふがいない投球をしながら、何ひとつ小言を言わなかった監督の期待に応えたかった。

 7回表が終わると、渡辺監督から「球数なんか関係ねぇ。完封して来い」と気合を入れられた。「気持ちの入った投球だった。CSの悔しさを出してくれた」。147球の熱投に指揮官は最後まで交代のシナリオを描かなかった。第7戦はブルペン待機となる。「いつでも行きます」。2勝2敗。西武にはまくる力がある。23歳の力投は、再び勢いと勇気を与えてくれた。【山内崇章】