<ロッテ0-5オリックス>◇14日◇千葉マリン

 まさに「ミスター完封」だ。オリックス金子千尋投手(26)がパ・リーグ記録に並ぶ3試合連続完封勝利で7勝目をマーク。チームでは350勝投手の米田(阪急)以来、45年ぶりの快挙となった。千葉マリン特有の強風の中、7安打2四死球と再三のピンチを背負いながらも要所を締めた。チームは勝率を5割に戻し、岡田監督もご満悦だった。

 偉業達成にも控えめに右の拳を握っただけだった。もう今季5度目。金子千の完封にナインも大げさに喜ばない。マウンドではささやかなハイタッチのみ。「最後の1球を投げるまで余裕がなくて、最後の最後まで一生懸命でした」という本人の感覚とは正反対だった。最後の打者福浦には直球を7球続けて空振り三振。135球目は146キロと、球威は衰えなかった。

 今季4連敗だった苦手ロッテも関係なかった。1回。先頭西岡に二塁打されたが、「走者を出しても次の打者を抑えようと思った」と動じなかった。2回からはセットポジションに変え、最大11メートルの強風に適応。逆にスタンドではね返り、向かい風になる千葉マリンの特性が味方した。チェンジアップやカーブの緩い球はブレーキ力がアップ。生命線である直球がより生きた。打者を観察し、微妙に投げるタイミングをずらす細かな技術も光った。8回1死満塁で金泰均を迎えた最大のヤマ場では、カウント1-1から外角低めのフォークボールで遊ゴロ併殺に打ち取った。

 球団では65年の阪急米田以来の3戦連続完封。最近の日本人では「ミスター完投」と呼ばれた89年の巨人斎藤雅樹(現コーチ)以来の快挙だった。「記録は知りませんでした。今年はロッテにやられっぱなしだった。今日こそはと思っていた。最高です」と、記録よりも勝利を喜んだ。この記録の直前まで自身3連敗と結果が出ず、苦しんだだけにうれしさは大きかった。

 1つの楽しみを失っていた。小3まで過ごした新潟での球宴出場という目標。「なかなかないチャンス。今年は本当に出たいと思っていた」と漏らした。深い雪で滑り台やかまくらをつくって遊んだ。野球を始めたのは小4で引っ越した長野からだが、豪雪地域を駆けめぐって足腰を鍛えた。いわば“ルーツ”だ。5月26日の投票開始の前後2カ月でわずか1勝。ファンの反応は正直で、あえなく落選。投票締め切り後の3戦連続完封は皮肉だったが、今はチームを押し上げるために投げるだけだ。

 ようやく7勝7敗と自身の星を5割に戻し、チームも1日で勝率5割に戻した。「まだ試合は残っているし、最後まであきらめずにいく」。球宴の夢は逃しても、もっと輝ける舞台は残されている。【押谷謙爾】

 [2010年7月15日9時14分

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