<ウエスタン・リーグ:阪神3-2中日>◇25日◇鳴尾浜

 阪神矢野燿大捕手(41)が25日、鳴尾浜での引退セレモニーで攻守に奮闘し、1軍の大逆転優勝にエールを送った。負ければ2軍Vが消滅したウエスタン・リーグ今季最終中日戦。それは魂の一撃だった。同点にされた直後の8回1死一塁。代打矢野のコールに満員の鳴尾浜が沸き立った。5月8日広島戦(甲子園)以来140日ぶりの実戦。左腕久本の低め真っすぐを捕らえ三遊間を破った。続く岡崎の勝ち越し適時打を呼んだ。

 「この試合を落とすと1年間戦った鳴尾浜のみんなの優勝がなくなる。思い切り振ることだけを考えた」

 勝ち負けで天国と地獄。「優勝争いの中で出させてもらうのは申し訳ない」。辞退も申し出たが平田2軍監督は首を振った。「そんなことはどうでもいい。出ろ!」。しかも1軍の試合を前に金本も鳴尾浜に駆けつけ、激励してくれた。「自分の体調もあるのに。朝早く起きて鳴尾に来るのは気持ちがないとできない」。そして1点差の9回表は盟友下柳とバッテリーを組んだ。

 「僕のために投げてくれて。でも楽しむ余裕はなかった」。2死後、四球と安打で一、三塁。最悪逆転V逸のピンチを背負ったが、セサルに要求通りのフォークが外角低めに決まって空振り三振を奪うとマウンドで下柳と熱く抱き合った。

 「2軍は望みが残った。1軍も自力優勝できる可能性がある。不可能はない。一緒に戦った仲間だし、最後までみんならしいプレーをして、満員の甲子園を喜ばしてくれたらうれしい」

 あきらめなければミラクルは起こる。「僕もチームのために準備だけはしておきたい」。30日の甲子園最終横浜戦では、正式な引退式が行われる。古巣中日と阪神の両軍に胴上げされたが、懸命に涙はこらえた。矢野も最後まで一緒に戦う。【松井清員】

 [2010年9月26日11時45分

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