日本球界復帰のあいさつは、お手本通りの中前適時打だった。楽天岩村明憲内野手(32)が24日、古巣ヤクルトとの練習試合(浦添)に「5番三塁」で先発出場。1回の好機では空振り三振したが、3回の第2打席で一時勝ち越しの適時打を放った。チームは逆転負けで対外試合は通算1敗3分け。星野楽天初勝利はお預けとなったが、攻撃のカギを握る男のバットが沈黙を破った。

 報道陣に囲まれた岩村は、真っすぐテレビカメラを見詰め表情を崩さなかった。対外試合出場3試合目、通算6打席目で楽天初安打&初打点。日本で5年ぶりの適時打の感想を聞かれ「0より1の方がいいけど」とだけ答えた。結果に満足する立場じゃない。「打席の中でやることを明確にやり、早く試合勘を取り戻したい」と心構えを説いた。

 実りある2振りだった。1回1死一、二塁の第1打席。ヤクルト中沢の球を4球続けて見送り、カウント2ボール2ストライク。5球目、カーブで初めて振ったが空を切った。米国にいる間に登場した新戦力に、この打席だけなら負けた。でも、これは単なる伏線。「あの打席があったから修正ポイントが分かった。足のステップにズレがあった」。再び好機で第2打席。3回2死一、三塁で今度は3球続けて見送った。4球目、外角直球をとらえ教科書通りのセンター返し。痛烈すぎて中沢のグラブはかすりもしなかった。

 「試合と練習じゃ全然、違う」と志願出場を続ける。感覚を研ぎ澄まし、生きたボールに対峙(たいじ)。初顔相手にも高い修正能力を見せた。礒部打撃コーチの「もっと良くなる。まだ突っ込んで見逃しているように見えるが、仕上がってくれば必ずやってくれる。何苦礎魂で内野を引っ張ってくれるでしょう」という期待はウソじゃない。試合直前のシートノック。若手に交じり野太い声を出し続けた。送球は、内野の誰よりも低く、鋭く捕手ミットに突き刺さった。

 メジャーの経験を若手に伝えてほしいという周囲の声は分かっている。だが、「僕も若い人には負けられない。まずは万全の状態で開幕を迎えたい」と謙虚に言った。置かれた立場で妥協しない。男岩村の哲学が垣間見えた。【古川真弥】

 [2011年2月25日9時13分

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