<オープン戦:巨人1-7楽天>◇24日◇東京ドーム

 あの悔しさは忘れない。巨人長野久義外野手(28)が、楽天戦の6回2死から右中間スタンドへソロ本塁打をたたき込んだ。WBCでは大不振で期待された働きができずに失意の帰国。屈辱の経験を今後に生かすと誓う中、開幕前の最後のオープン戦で、復調の兆しを示す1発を放った。オープン戦は全日程が終了し、29日にはセ、パ両リーグの公式戦が同時に開幕する。

 世界舞台で失いかけていた感覚が、久々に全身を駆け巡った。6回2死。長野が143キロの高め直球に反応した。「上からしっかりたたけた」。特有の右方向へ伸びる打球が右中間スタンドに吸い込まれた。「久しぶりにいい当たりだった。オープン戦も最終戦なので打てる球を打とうと思っていた」。右打者にとって長打力を証明する逆方向への一撃だった。

 試合後、苦闘のWBCについて聞かれ、正面から思いを口にした。

 長野

 すごくWBCで悔しい思いをした。本当に申し訳ない気持ちがある。なかなか、ああいう緊張感はない。CS、日本シリーズよりも緊張感があった。でもすごくいい経験もさせてもらったので、これをシーズンで生かせればと思う。

 つらい思い出が残る1カ月だった。18打数4安打の打率2割2分2厘、準決勝プエルトリコ戦で9回2死で代打を送られ、長野のWBCは終わりを告げた。帰国後も心の傷は残った。オフ明けの始動の際には開幕への意気込みを聞かれ「野球のやり方を忘れちゃいましたよ」。冗談も含んだ言い方だったが、WBCの話にはほとんど触れなかった。

 長野の復調を本人も、そして周囲も願っていた。合流初戦となった前日23日の楽天戦は3打数無安打。この日の試合前には珍しく早出で打撃練習を行い、通常の練習でも原監督から指導を受けた。テレビ解説で訪れた日本代表の山本監督にあいさつに行くと「しっかりと頑張ってくれ」と激励された。その山本監督を「長野が打ってホッとしたよ。いい打ち方だった。本来の形だね」と、ひと安心させた。

 周囲の心配を振り払い、自らも心の整理をつけるようにWBCについて口を開いた。巨人の連覇には切り込み隊長・長野の働きは欠かせない。原監督もWBC後、早々に1番起用を公言した。長野の野球選手としての期待は何ら変わることはない。「元気な姿を見せられるように頑張りたい」。つらい過去は、未来への原動力にする。【広重竜太郎】