<阪神0-1巨人>◇4日◇甲子園

 由伸が「虎の子の1点」をもぎ取った。左ふくらはぎ肉離れが完治した巨人高橋由伸外野手(38)が、右脇腹痛で欠場した阿部の代役4番に座った。6回、内野安打で出塁すると、続く村田の安打で三塁まで激走。ボウカーの決勝犠飛をお膳立てした。先発宮国は4月23日以来となる3勝目。点差以上の力差を見せつけ、2位阪神との差を4・5に広げた。

 3カ月前のトラウマなど、高橋由には一切、なかった。6回無死一塁。フルカウントでスタートを切る。村田の一、二塁間を破る当たりに迷わず二塁ベースを蹴った。捕手出身のライト今成の強肩をかいくぐり、三塁へ滑り込んだ。38歳のベテランが足でチャンスを拡大させた。

 「久々に走ったね」。4月4日のDeNA戦で三塁打を狙い、二塁を回ったところで左ふくらはぎを肉離れ。この日の三塁進塁直前には二塁左へのゴロで一塁へ全力疾走して内野安打をつかんだ。再発を恐れ、減速してもおかしくない。だが当然のごとく三塁を狙った。「(三塁コーチの)勝呂さんも手を回していたし、スタートも切っていたから」。ボウカーの犠飛で生還。足で阪神から決勝点となる1点をもぎ取った。

 度重なる故障を経験してきた高橋由にとっても筋肉系の故障は人生初だった。「(重症と)すぐに分かった。これがうわさに聞いていた肉離れかと思った」。戦線離脱直後、携帯のメールに懐かしい名前が表示された。昨季限りで引退した松井秀喜氏だった。「やってしまったことは仕方ない。しっかり治して」。頻繁に連絡をくれる先輩ではない。「珍しいよね」。心遣いがうれしかった。

 6月28日の1軍昇格まで約3カ月。先月中旬には1軍練習に参加、自身の判断に昇格を委ねられた。だが2軍調整を選択。根底にある思い。「また1軍で(故障を)やったら元も子もない」。再発すれば、さらに迷惑がかかる。慎重を期した。

 高橋由は揺るがない。今回の故障も「やったことはしょうがない」と冷静だった。毎年キャンプイン時に宮崎・青島神宮で絵馬に4文字熟語を書く。今年は「確固不抜(意志や精神などがしっかりとしていて動じないさま)」を添えた。「ネットとかで4文字熟語を調べるけど、揺らがないでやるという意味のものを選ぶ」。それは松井氏のモットー「不動心」とも重なる。

 阿部が欠場し、11年9月3日ヤクルト戦以来の4番だった。「4番を任されたわけじゃない。代わりはできない」。だがこの日の存在感は抜けていた。6回の走塁後に交代したが「何かあったらあんなに走らない」と不安を一掃。伝統の一戦を高橋由の揺るぎない心で制した。【広重竜太郎】