<神宮大会:早大2-1東海大>◇最終日◇18日◇大学の部決勝◇神宮

 持っている男、早大・斎藤佑樹投手(4年=早実)が、涙の大学日本一で学生野球のフィナーレを飾った。1点リードの9回から登板し、1回2奪三振無失点で胴上げ投手になった。来秋ドラフトの目玉、巨人原監督のおい、菅野智之投手(3年=東海大相模)擁する東海大を2-1で破り、初優勝。06年夏の甲子園、07年の全日本大学野球選手権に続き、「アマ3冠」に輝いた。今後は日本ハムとの契約交渉に入り、プロへと歩みを進める。

 もう、こらえ切れないほど、涙がこみ上げた。早大ファンで埋まったスタンドに、斎藤が両手を突き上げる。直後に、熱いものがあふれ出た。指で両目を押さえても止まらない。ウイニングボールを受け取ると、かつてハンカチを忍ばせたポケットに、そっとしまった。

 「高校の時もそう。最後こういう形で終われて、僕は幸せものだと思いました」。勝って泣いたのは、あの夏以来だった。

 晩秋の神宮が、斎藤の登場を待っていた。9回。ブルペンから、ゆっくりと歩みを進める。1万6000人の観衆が拍手で迎えた。福井優也投手(4年=済美)、大石達也投手(4年=福岡大大濠)とつないだ、初のドラフト1位トリオリレー。西日を浴び、荒れたマウンドに立った。

 初球、生命線の外角直球が、低めに伸びた。148キロ。同じ位置からスライダーを沈めて、追い込む。再び直球を見せて、最後はボールになるスライダーを振らせた。「最後は大石のはずでしたが、斎藤にマウンドにいてほしいと言われました。みんなの思いを背負って、いいピッチングができた」。1点リードのしびれる場面を2奪三振で締め、歓喜の輪に吸い込まれた。整列を終えると、次代を担う東海大・菅野と握手を交わした。

 優勝インタビューでは、異例のマイクパフォーマンスに乗り出した。「何を持っているか確信しました。それは仲間です」と自ら切り出した、今月3日の早慶優勝決定戦の再現を期待された。「アマチュア野球は野球界の原点。上のステージでもエンターテインメントできるように頑張ります」と決めた。

 この瞬間を味わうために努力を続けた。「一生懸命やれば、神様がご褒美をくれると信じた」。苦しんだ3年時には1年間優勝から遠ざかった。「山あり谷あり。特に谷の方が大きかった」と言う。それでも1年春、日本一で始まった激動の4年間を、これ以上ない形で締めた。「持ってないと言ったらウソになります」とはにかんだ。

 斎藤の夢。3月の米国ロサンゼルスキャンプでは、かつて卒業文集に書いたメジャーリーグのキャンプを見学した。現地OB会の食事会に出席すると、マイクを握って切り出した。「いつかプレーヤーとして、ここに戻ってきます」。

 心には常に大志を抱く。将来は大リーグでプレーし、50歳まで現役を夢と言ったことがある。周囲からは、引退後の早実監督待望論だって根強い。優勝旅行は4年生28人全員で、グアム旅行を計画する。エンターテインメントな未来には、果てしない可能性が広がっている。【前田祐輔】