3連覇への“スプラッシュ・ヒット”だ。WBC日本代表は16日(日本時間17日)、AT&Tパークでプエルトリコ戦に向けた全体練習を行った。右翼後方にサンフランシスコ湾をたたえる同球場は、高いフェンスも相まってライト方向への本塁打が難しいことで知られる。だがこの日のフリー打撃で、阿部2本、稲葉1本、糸井2本と、左打者から合計5本の場外本塁打が飛び出した。プエルトリコの捕手ヤディエル・モリーナは強肩で、盗塁は至難の業。左のスラッガーたちで準決勝を突破する。

 「スプラッシュや~!」と坂本が大喜びした。右翼で練習する投手陣も「これもいった!」と夜空を見上げた。高さ7・6メートルの右翼フェンスがそびえ立つAT&Tパーク。侍ジャパンが誇る左の強打者たちが“スプラッシュ・ヒット”の通称で知られる場外アーチを合計5本も打ち込んだ。予定外のナイター練習に活気が生まれた。

 最初は阿部だった。「頑張ってサンフランシスコまで来た。もう一生、来ることのない球場かも知れないから」と、丁寧なセンター返しの合間にフルスイングを挟んだ。右翼フェンスのポール近くには、過去に飛び出した通算場外アーチを示す「SPLASH

 HITS

 62」の電光掲示板がある。そのはるか上方に2本、打った。チームを引っ張ってきた主将は「感動しました」と、野球少年に戻って笑った。

 続いたのは稲葉だった。打撃好調で、スタメン出場が確実な40歳。場外に消える打球に、阿部と同じで「思い出になりました」と照れ笑いした。直後、糸井が周囲の度肝を抜いた。「目いっぱい振りました。気持ち良かった」と、先輩2人と同じでバッターの本能に任せた。右中間の最深部は極端に深く、中堅より広い128メートルもある。その上に2本、放物線をかけた。

 単なる景気付けの5発、ではない。4番阿部、6番糸井、8番稲葉。スプラッシュ弾トリオは、打線の中軸から下位に散らばって配置される。3人の長打こそが、決勝進出へのキーポイントとなる。

 プエルトリコの捕手Y・モリーナはメジャー屈指の強肩で今大会も盗塁を3度阻止している。日本が得意の、盗塁などの足技が簡単には駆使できない。つまり、長打や本塁打にかかる比重が一層高くなる。加えて相手の先発M・サンティアゴは、直球が最速で145キロほどの右腕。球筋もきれいで、力負けの心配もない。

 AT&Tパークの“スプラッシュ・ヒット”は、バリー・ボンズの専売特許だった。左の侍たちが本家のお株を奪う芸当を決めれば、頂点がクッキリと見えてくる。【宮下敬至】

 ◆ヤディエル・モリーナ

 1982年7月13日生まれ。プエルトリコ出身の30歳。00年ドラフト4巡目でカージナルス入団。04年にメジャーデビューを果たし、51試合に出場。05年に捕手のレギュラーとなり06年にはワールドシリーズ制覇に貢献。昨季は打率3割1分5厘、22本塁打、76打点。08年から5年連続ゴールドグラブ賞を獲得。今季年俸は1400万ドル(約13億3000万円)。180センチ、100キロ。右投げ右打ち。