新型コロナウイルスに感染し、入院していた勝武士(しょうぶし)さん(本名・末武清孝=すえたけきよたか)が13日に亡くなった。

勝武士さんといえば、「初っ切り」のイメージが強かった。私が相撲担当になったのが16年の九州場所から。その時にはすでに勝武士さんは、日々の巡業などで全国各地の相撲ファンに笑顔を届けていた。

私が担当になった当時、勝武士さんは元高三郷の和木勝義さんとコンビを組んで約2年たっていた。口に含んだ力水を互いの顔に吹きかけ合ったり、ラリアットの応戦があったり。組んでは土俵際で2人そろって観客席に向かってVサイン。最後は勝武士さんにハリセンで腹を切られ、頭をたたかれた和木さんが土俵上に大の字で倒れて終了。名漫才師のような、息の合った完成の高い約10分間の実演に観客同様、巡業取材中の私も何度も笑顔にさせられた。

ある日の巡業で、出番前の勝武士さんに声をかけたことがあった。調子を聞くような、何げない声かけだったと記憶する。しかし返事はなく、真剣な表情を浮かべたまま勝武士さんは土俵上へ。先ほどまでの表情とは打って変わり、いつものようにハツラツとした表情で、2人息の合った動きを見せて会場中から笑いを誘った。

実演終了後、勝武士さんから声をかけられた。「さっきはすいませんでした。出番前は少し集中したくて」。初っ切りに懸ける、高いプロ意識をかいま見た瞬間だった。

先日、勝武士さんと同期の琴恵光が「人を喜ばせるのが好きだった」と振り返るように、ムードメーカー的存在だったようだ。確かに、勝武士さんの周りにはいつも多くの人の笑顔があった。私も勝武士さんからエネルギーをもらったその1人として、今後の取材活動にまい進していきたい。【佐々木隆史】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「大相撲裏話」)

17年2月、初っ切り相撲で取組中にVサインを見せる勝武士さん(右)
17年2月、初っ切り相撲で取組中にVサインを見せる勝武士さん(右)