日本相撲協会が7月場所(19日初日、東京・両国国技館)の開催を目指す中、プロ野球が開幕日を6月19日と決めた。他競技でも再開の足音は近づいており、スポーツ観戦を趣味に持つ方々の期待も高まっているのではないだろうか。

角界でスポーツ観戦好きといえば、横綱鶴竜(34=陸奥)がパッと頭に思い浮かぶ。NBAを筆頭にさまざまなスポーツに精通。鶴竜の囲み取材では、雑談の中で他のスポーツ界に関する質問が飛び交うことはしばしばある。昨年10月、デビュー直後のウィザーズ八村塁の話題に及ぶと「外からのシュートがそこまで決まっているわけではないのに、あれだけ点を決められる。シュートタッチがまだ向こうで慣れていないのか外している。あとは慣れでしょうね」と解説。囲んでいた記者はフンフンとうなずく。相撲記者は土俵上での活躍を取り上げるのが基本。本業と関係ないことを聞くのは、少し恐れ多い場面がある。ましてや横綱。しかし、鶴竜はいつも嫌な顔をせずに答えている。

そんな横綱の懐の深さに、昨年8月の夏巡業で救われたことがあった。土俵入り後の取組までの合間に、鶴竜が遊びで会場内のバスケットゴールを使いシュート練習を行っていたときのことだ。なぜか記者はたまたまゴール下にいたため、球拾いをした。その1週間後に行われたバスケットボール男子日本代表の強化試合の始球式でもその実力を示していたが、鶴竜の3点シュートはぽんぽん入る。7本連続で決める場面もあった。明後日の方向にいくことがほとんどない。リバウンドを拾うのもラクだ。華麗なシュートフォームに見とれるあまり、総シュート本数と成功本数を数えていなかった(デスクに怒られた)が、5、6割は成功していたのではないだろうか。

約15分間のシュート練習が終わると、取組の準備のため、鶴竜は支度部屋に戻った。記者はここで大失態に気づく。リバウンドを拾うことに集中していたため、練習中の写真を撮っていなかった。写真がある、なしでは全く違う。どうすれば…。もう時間はない。取組直前に、横綱本人に頼み込むしかなかった。

巡業の支度部屋でも、横綱は忙しい。関係者へのあいさつや写真撮影、髪結いや綱締め実演など取組以外の仕事がたくさんある。基本的に取材は土俵入りまでに済ます必要があり、多忙の横綱に時間を割いてもらうことは申し訳なかった。

でもいくしかない。たしか結びの4、5番前、花道に向かう途中で声をかけた。「すみません横綱、これ(ボール)持って、写真いいですか?」。本当に取組直前だ。断られるかも…と思ったが、鶴竜は言葉を発さずうなずき、ボールを右手に持って記者のカメラに向き直った。写真は笑顔。満面の笑みだった。横綱の懐の深さに、感謝してもしきれない。ちなみにその写真を掲載した記事は、WEBを通じてそこそこ読まれたらしい。サムネイルの笑顔に引きつけられたのだろうか。多彩な一面が伝わっていれば幸いだ。

NBAなど世界中のスポーツが再開したときには、また話を聞きにいくかもしれない。もちろんそれ以上に、土俵での活躍を取り上げていく所存です。【佐藤礼征】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「大相撲裏話」)