元レスリング世界女王の総合格闘家・山本美憂(44)が亡き弟にささげる勝利を飾った。

「狂乱の金網女王」の異名を持つアンディ・ウィン(36=米国)と対戦。開始から相手の打撃をかわし、1回40秒すぎには得意のタックルで倒す。上からパンチを連発。ペースをつかんだ。2回以降も勢いは止まらない。KIDさんに背中を押されるように、攻め続け、大差判定で勝負を決めた。試合を終えると天井を指さして涙を流した。

「みなさんの応援があったからリングに上がれた」。

実弟の山本“KID”徳郁さん(享年41)が18日に胃がんで死去してから12日。まだショックも癒えぬどころか、亡くなった事実が信じられない状況の中、天国にいるKIDさんに勝利を届けた。

「ここで勝って、勝ち癖をつけないとダメだよ」。グアムで過酷な闘病生活を送るKIDさんは、一時RIZIN11大会の欠場を示唆した姉の山本美憂(44)に、メッセージを送ってきた。

リングに上がってほしい、強くなってほしい、勝って欲しい。病床から「この技良いよ」と動画を送ってくることも多々。美憂は「自分はつらいはずなのに」といつも感謝していた。だから、今回も戦う、そこに迷いはなかった。それが弟の意志だと誰よりも理解していた。

前日計量では、対戦相手にも感謝する出来事があった。16年に敗れたウィンとは、その後も交友は続いていた。計量を終えると、壇上で渡されたのは死を悼む白い花束。「うれしいですよね。亡くなった直後にもメッセージくれて」。ウィンも昨年12月に父を亡くしたが、翌1月の試合に出場した経験があった。大切な肉親を失った気持ちを共有してくれ、この試合を戦い抜く意味は一層深まっていた。今後も山本はKIDさんとともに戦い続ける。