大阪市立大大学院生でIBFフライ級15位の坂本真宏(27=六島)が同級王者モルティ・ムザラネ(36=南アフリカ)に挑戦することが5日、発表された。「国公立大大学院生」の世界挑戦は日本ボクシング史上初。井岡一翔が日本人初の世界4階級制覇に挑むWBOスーパーフライ級王座決定戦、京口紘人が2階級制覇に挑むWBAライトフライ級戦とともに3大タイトルマッチとして、31日にマカオのウィンパレスホテルで行われる。

坂本はこの日、大阪市住吉区の同大学キャンパスで会見に出席。「本当にうれしい。応援してくださる皆さんへの感謝を力に替えて、世界王者を殴り倒したい」。同大工学部を卒業し、大学院で工学研究科で修士課程機械物理学系を専攻する“理系男子”は力強く決意を語った。

修士論文のタイトルは「陽極酸化チタン中空シートの水熱法によるチッ素ドープ」。一般人にはチンプンカンプンの専門知識を持つ男は、大学から体育会でボクシングを始めた。殴り合いの「非日常感に引かれた」というが「むしろ争いを避けて生きてきた」と笑う。大学では関西学生リーグの2部、3部のトーナメントの優勝経験こそあるが、大きな実績はない。14年12月にプロデビュー。「最初は楽しむことだけを考えていました」。16年11月に前WBO世界フライ級王者木村翔と同アジア太平洋フライ級王座決定戦を行い、0-2判定負け。その木村が昨夏に世界王者となり、強烈に世界を意識した。来春入社予定だったロボット工学関係の会社の内定を辞退。昨年12月に同アジア太平洋フライ級王座を獲得、階段を駆け上がってきた。

六島ジムの枝川孝会長が「全く知名度も、人気もない」と笑う坂本の夢のために資金集めに奔走。大阪市立大の荒川哲男学長に頭を下げ、同学長に個人的に橋渡ししてもらった大学OBを回り、スポンサーは約10社集まった。だが、それも王座を奪い、初防衛戦を大学の体育館で実施するという“先行投資分”を込みの協力だという。「現時点でファイトマネーは0円」と同会長は苦笑いする。

坂本は覚悟の上だ。「周囲の期待を背負って、海外で…。正直怖さがあったし、プレッシャーも感じました。でも、人生に1回あるかないかのチャンスですから」。すべてを懸け、大みそかに一世一代の勝負に出る。