岡山のジムから世界王者を目指した挑戦者の同級1位ユーリ阿久井政悟(28=倉敷守安)が、夢を成し遂げた。無敗の同級王者アルテム・ダラキアン(36=ウクライナ)に挑み、3-0の判定で勝利した。

開始から試合終了のゴングまで前進してテクニシャンの王者にプレッシャーをかけ続けた。相手にダメージを与える決定打こそ少なかったが、最後まで優勢に試合を進めた。「(王者は)素晴らしい人間で、対戦することがなければずっと尊敬していたけど、今日はそれを抜きにして出せる力を出した。ずっとほしかったベルト」と新王者。当初は昨年11月に東京で開催予定だったが、諸事情で延期となった一戦。ユーリ阿久井は延びた時間も味方につけ、歴史的な勝利をつかんだ。

同ジムからはかつて、元東洋太平洋ミニマム級王者ウルフ時光が2度、世界戦に挑んではね返されていた。世界戦の興行を行うために大きな借金を抱えながら「岡山のジムから世界王者を」という夢を追いかけたのが元日本スーパーライト級王者の守安竜也会長(70)。ユーリ阿久井は「守安ジムの会長、先輩みんなで取ったチャンピオンベルト」と感慨深げに、リング上でチャンピオンベルトを自ら会長の腰に巻いた。

ジムは1987年(昭62)に会長が農地の一角に立ち上げた。ユーリ阿久井は小学3年から始めたサッカー少年だった。サッカーのDFとして活躍したが、心の中ではボクシングへの思いを抱いていたという。中学2年から倉敷守安ジムに通い、導かれたボクシング。今は国道沿いに移転したジムへ、大きなタイトルをもたらした。

岡山県出身者としても元WBC世界バンタム級王者辰吉丈一郎以来となる世界王者。「岡山のみなさん本当にありがとうございました。これからも応援よろしくお願いします」と新王者。岡山県人の誇りを胸に偉業を成し遂げた。今後は未定だが、地元の岡山で「防衛戦ができるなら、やりたいです」と凱旋(がいせん)を熱望していた。世界王者となり、夢の広がりは果てしない。

◆ユーリ阿久井政悟(あくい・せいご)1995年(平7)9月3日、岡山・倉敷市生まれ。元プロボクサーの父一彦氏らの影響で中学2年から倉敷守安ジムでボクシングを開始。倉敷翠松高2、3年で国体ベスト8入り。アマ戦績は20勝7敗。環太平洋大在学中の14年4月、4回判定勝ちでプロデビュー。15年全日本ライトフライ級新人王。19年9月、日本フライ級王座獲得。家族は夫人と2女。身長164の右ボクサーファイター。

<ユーリ阿久井政悟(本名・阿久井政悟=あくい・せいご)>

◆ユーリ 先輩から顔が元WBC世界フライ級王者勇利アルバチャコフに似ていると指摘されたことからリングネームとなった。

◆サッカー少年 小学3年から中学1年までサッカー少年。主なポジションはDF。

◆DNA 父一彦さん(59)は元ボクサーで倉敷守安ジム最初のプロ選手。戦績は13勝(3KO)15敗2分けだった。ユーリ阿久井は中学2年から倉敷守安ジムでボクシングを始める。倉敷翠松高で2、3年時に国体8強で3階級制覇王者の田中恒成と対戦も。卒業後は環太平洋大に進学。アマ戦績は20勝7敗。

◆プロ戦歴 14年4月にプロデビュー。15年12月にライトフライ級全日本新人王獲得。19年10月、小坂駿との王座決定戦で日本フライ級王座獲得し3度防衛。プロ戦績は19勝(11KO)2敗1分け。

◆タイプ 身長163センチの右ボクサーファイター。

◆家族 妻・夢さん(28)、長女千聖ちゃん(3)、次女琴乃ちゃん(1)。