「勢」と書いて「勢」とサインを添える。「ちょっと、狙っているように思えるかもしれませんが…」。幕内勢(29=伊勢ノ海)が選んだ今年の漢字1文字は、自らのしこ名でもあった。「勢いよく最後まで力を出せましたし、ちゅうちょせず勢いよく『治療をしよう』と決断できました。そして勢いよく、痛いのを乗り越えられましたから」。胸を張って、しこ名でもある、その字を見せた。

勢の今年の漢字は当然この1字
勢の今年の漢字は当然この1字

 11年九州場所で関取に上がってから「だんだん、痛くなり始めた」という左肩。「最初は我慢しながらやっていました。でも、当たるたびに中にたまった水が、その衝撃で神経に触れてしびれていたんです」。

 今年8月に、意を決して“手術”した。深さ10センチまで太い針を刺し、エコーを当てながら「かたまり」をさぐる。水のかたまりが2カ所、血のかたまりが1カ所あった。約2時間かけて、少しずつ抜いた。

 そうした勢いのよさが、運命をプラスに回転させた。翌秋場所は11勝を挙げた。11月の九州場所では幕内で自己最多の12勝を挙げた。前頭4枚目以内で勝ち越したのは初めてだった。「コツコツやることが一番ですけど、その上で勢いも大事。勢いよく1年が終わりましたね。あっという間。早かった。いいこと、悪いこと、すべてひっくるめて、今がある。たくさん経験した1年でしたね」と振り返った。

 来年の今ごろ、1年間がどんな漢字だったと振り返っていたいか-。そう尋ねると「信」という漢字を挙げた。「信念の『信』ですね。信はいい言葉。信じるでもありますし。自分を信じて頑張ります」。「勢」を信じる。その先に、もっと喜びにあふれる1年が待っている。【今村健人】