右足が俵にかかり、体も半身になる。横綱稀勢の里(30=田子ノ浦)は完全に絶体絶命の状況だった。

 しかし、ここから神懸かり的な相撲が始まる。右足1本で俵で粘る。押されて上体が起きても踏ん張る。右を深く差されても、こらえる。先に耐えられなかったのは千代の国の方だった。思わず引いた相手に、稀勢の里の体はつんのめったが、構わず前に出た。最後は体を預けるように押し出し。驚異的な逆転勝利だった。

 「何があるか分からないので。最後までは。まだ行ける感覚はありました」。

 花道を引き揚げる際も激しく息を切らしていた相手と違い、勝ち名乗りを受ける際にはもう、涼しい顔。「そこ(体力)だけしか自慢はないから」と笑い飛ばしながら、白星を先行させた。