横綱稀勢の里(31=田子ノ浦)が、東前頭5枚目宝富士に負けて、今場所5個目の金星を配給した。1場所で5個の金星配給は、01年秋場所の武蔵丸に並ぶワースト。秋場所の日馬富士以来となる3日連続の配給で、自身9個目となった。3場所連続休場からの復活どころか、4場所連続休場の可能性も出てきた。横綱白鵬は、平幕の千代の国を下して唯一の全勝キープで、40度目の優勝に前進した。

 前のめりに倒れて両手と両膝を土俵上につけた稀勢の里は、すぐには立ち上がれなかった。3日連続、今場所5個目の金星配給。4勝5敗と黒星が先行した現実を、受け止めるには時間を要した。

 立ち合いで左四つになり、盤石の体勢をつくった。あとは寄り切るだけ。誰もがそう思ったが、ここから寄り切れない。土俵際に追い込もうにも、あと1歩足りない。四つに組んだまま静止すること15秒。先に仕掛けた。土俵際に追い込んだ。しかし、宝富士のまわしをつかんだ左手が、離れた瞬間だった。体を開いた相手の、捨て身の下手投げにもろくも崩れた。

 何をやっても、うまくいかない。宝富士とは過去17番取って、1度しか負けたことがなく、合口は良かった。16勝中14勝は寄り切りで、勝利のイメージは頭の中にあったはずだが、土俵を先に割ったのは自分のほうだった。支度部屋で髪を結ってもらう間、報道陣の質問には「うーん」と答えるのが精いっぱい。表情は険しいままだった。

 稀勢の里と同じ3場所連続休場から、明けた89年初場所で優勝した八角理事長(元横綱北勝海)は「やっぱり焦る。負けるだけに焦る。焦ることは1つもないのに」と横綱の気持ちをくんだ。続けて「明日頑張れる気力を出すのがどれだけ大変か。横綱の責任。苦しいけど頑張るしかない」とエールを送った。

 今日平幕の千代の国に負けて4日連続金星配給となれば、31年春場所の宮城山以来86年半ぶりの不名誉となってしまう。日馬富士の暴行問題で周囲は騒がしい中、相撲に集中できるか。負の連鎖を止められるのは、自分自身しかいない。【佐々木隆史】

 ◆1場所5個の金星配給 優勝制度確立以降、01年秋場所の武蔵丸以来2人目で最多タイ。武蔵丸は4日目に琴光喜、6日目に朝青龍、7日目に海鵬、9日目に玉春日、11日目に栃乃洋に敗れた。ただ貴乃花の全休による1人横綱で、4大関のうち3大関の途中休場もあり皆勤出場。結果、残る大関は同部屋の武双山だったこともあり、横綱、大関戦がないまま9勝6敗で終えた。