新関脇の朝乃山(25=高砂)が、令和初の天覧相撲で意地の9勝目を挙げた。優勝争いに絡んでいた大関貴景勝を上手投げで撃破。3月の春場所での大関とりに向けて足固めとなる10勝に王手をかけた。優勝争いでトップに立つ、近大相撲部先輩の徳勝龍に刺激を受けながら千秋楽に向かう。徳勝龍に負けた正代が1差に後退し、貴景勝の優勝は消滅した。

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賜杯を抱くことはできなくても、絶対に負けられない一番だった。馬力のある大関相手に、立ち合いで突き放されて土俵際へ。体を密着させて何とかこらえて、左上手を取った。「絶対に離さない」。執念でつかみ続け、土俵際で上手投げ。次は貴景勝に驚異的な粘りで残られたが、再び上手投げ。ぎりぎりまで体を残して、貴景勝が先に落ちるのを見届けた。

まさに注目の一番だった。優勝に向けて後がない貴景勝と、来場所での大関とりに向け2桁勝利が必要な朝乃山。取組前に八角理事長(元横綱北勝海)は、天皇陛下に「どちらも負けられない一番です」と説明。熱戦をご覧になった天皇陛下は「いい一番でしたね」とお話しになり、八角理事長は「よく残ったと思います」と話した。それでも朝乃山本人は「本当は前に出ないといけない。相撲内容は悪かった」と反省した。

先輩の背中を見て発奮する。優勝争いトップの徳勝龍は、同じ近大出身で7学年上の先輩。巡業では食事に誘ってもらうなどしてかわいがってもらっているという。「青木さん(徳勝龍)の相撲を見ていたので」と徳勝龍が勝ったことで、より気合が入っていた。「ここまで来たら頑張って欲しい」と言いつつも、すぐに「でも優勝したらやっぱり悔しい。いい刺激になる」と引き締めた。

2桁白星に向けて「自分の相撲を取り切るだけです」と欲は出さない。「本当は優勝争いに入りたかったけど、もたもたして入れなかった。後は来場所につながる相撲を取りきるだけ」と静かに闘志を燃やした。【佐々木隆史】