小結高安(31=田子ノ浦)が、悲願の初優勝に向けて1歩踏み出した。

関脇照ノ富士を寄り切りで破って1敗を死守。初日こそ黒星発進も、2日目から7連勝して、自身初となる単独首位に立った。横綱不在、ここまで3大関安泰なしの荒れる春場所で、大関経験者が存在感を発揮している。大関復帰を狙う照ノ富士は2敗に後退。かど番脱出を狙う貴景勝は5勝目を挙げた。

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大関陣にも引けを取らない、白熱した一番を高安が制した。一心不乱に力強く踏み込んだ立ち合い。照ノ富士の中に潜り込むと、深く右を差した。左も差してもろ差しになるも、照ノ富士が両抱えになって激しく抵抗。小手投げで振られても我慢し続け、右でつかんだ結び目だけは絶対に離さなかった。下手投げを打って体勢を崩すと、優勝候補を力強く寄り切った。

オンライン取材に現れた高安は「立ち合いも良かったし、右が深く入った。後はじっくり相撲が取れました」と淡々と振り返った。照ノ富士を2敗に引きずり落とし、11年名古屋場所で新入幕を果たして以降、初の単独首位。それでも「まぁ、明日の相撲に集中して気を抜かないでやりたい」と浮かれることは一切なく、引き締めた。

気持ちの入る一番だった。ともに大関復帰を目指している2人。ケガに苦しみ、高安は幕内下位から、照ノ富士は序二段からの再出発だった。自身よりも、はるか下まで番付を落とした照ノ富士は、再入幕を果たした昨年7月場所で復活優勝。今場所は2度目の大関とりに挑んでいる。以前から、似た境遇として意識する相手だっただけに「やることはお互い一緒。上を目指す中でこういう相撲が取れていい刺激になった」と気合を入れ直した。

悲願の初優勝が、視野に入ってきた。それでも「明日もいい内容で取りたい」と先は見据えない。ただ愚直に、1日一番の精神を貫いた先に賜杯が待っている。【佐々木隆史】

▽八角理事長(元横綱北勝海) 高安は右の使い方がうまかった。照ノ富士の脇の甘さをついて、2本差した。一気に出ると(照ノ富士の)小手投げがある。その後も落ち着いて、ゆっくり出た。照ノ富士の怖さを分かっている。(優勝は)意識するでしょうが、意識しても自分の相撲を取り切らないと優勝できない。

▽幕内後半戦の高田川審判長(元関脇安芸乃島) 高安は踏み込みよく中に入って、じっくりと考えて相撲を取った。照ノ富士は苦手意識があるのか、立ち合いが悪く、はっきりしなかった。(優勝争いは)混戦になる。面白い場所になると思う。