新型コロナウイルスへの感染を恐れて休場を申し出たが拒まれ、引退に追い込まれたとして大相撲の元琴貫鉄の柳原大将さん(25)が日本相撲協会などに計約415万円の損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論が12日、千葉地裁松戸支部で開かれた。
被告側は欠席したが、請求棄却を求める答弁書を提出して争う姿勢を示した。代理人とともに出廷した柳原さんは、報道陣の取材に「相撲界を少しずつ変えていくきっかけにしたい。中にいる人たちが伸び伸びと相撲ができる環境にしたいという決意が固まった」と述べた。
訴状によると、柳原さんは2021年1月、日本協会と師匠の佐渡ケ嶽親方(元関脇琴ノ若)による対応に不当があったと主張した。持病の不整脈を抱えていることから新型コロナ感染への不安が高まり初場所の休場を申し出たにもかかわらず、同協会から「コロナが怖くて休場は認められない」などと拒まれ、さらに同親方からも「出るか、辞めるかしかない」と2択を迫られた。命の危険を冒してまで続けることはできないと引退を余儀なくされたとして、慰謝料などとして計約415万円を支払うよう求めている。
前年の20年5月には、新型コロナウイルス性肺炎による多臓器不全で高田川部屋の三段目の勝武士(しょうぶし)さん(本名・末武清孝)が28歳の若さで亡くなった。日本のプロスポーツ選手が新型コロナウイルスの影響で死去するのは初めて。この衝撃は、柳原さんに重くのしかかった。勝武士さんと同じく基礎疾患を抱え、感染時の重症化リスクを懸念した。
千葉・松戸市内にある部屋から東京・両国国技館までの電車移動時などに不特定多数の人との接触は避けられない。また、同場所に出場すればマスクなしでの取組を行うため、飛沫(ひまつ)感染のリスクも高まる懸念もあった。場所前に協会員へのPCR検査や万一感染者が出た場合に当該の部屋封鎖など感染対策が行われていたが、自身の不安を払拭(ふっしょく)するまでにはいかなかった。
21年1月9日に自身のツイッターで引退を決めた思いを投稿。大きな反響が寄せられた。
「今日を持って引退することになりました。このコロナの中、両国まで行き相撲を取るのはさずがに怖いので、休場したいと佐渡ケ嶽親方に伝え協会に連絡してもらった結果、協会からコロナが怖いで休場は無理だと言われたらしく、出るか辞めるかの選択肢しか無く、自分の体が大事なのでコロナにおびえながら我慢して相撲を取ると言う選択肢は選べず引退を決意しました」(以上は柳原さんのツイッターの原文から抜粋)
新型コロナ感染症は今月8日に季節性インフルエンザと同じ5類へと移行し、3年以上にわたって行われたコロナ対策は「有事」から「平時」へ大きな転換期を迎えた。
引退から2年余り。社会が動きだそうとしている今も、柳原さんはあの時、協会と親方との間でどんな話し合いが行われていたのか気になっている。
角界だけではなくスポーツ界全体に影響を及ぼした新型コロナ。未知の感染症に対して当時は難しいかじ取りが強いられた。今回の訴訟を通じて、柔軟な対応ができなかったのかいま一度考える場にしたいという。「僕の心臓が悪いと知っていながら、当時なぜあのような対応になったのかを話してほしい。(原告と)戦いたいのではなく、人生を預けた身として、当時、どんな話し合いが行われていたのか教えてもらいたい」と話していた。【平山連】
◆琴貫鉄の引退のVTR 2021年1月9日、自身のツイッターを更新し、初場所を前に新型コロナウイルスへの恐怖心を理由に引退することを発表。一夜明けた10日の取材に応じた日本相撲協会の芝田山広報部長(元横綱大乃国)は「協会は安全対策を取ってきた。それに対応ができないなら本人が出処進退を考えるしかない」などと私見を述べた。

