“必殺仕事人”の関脇大栄翔(29=追手風)が、またまた平幕優勝の壁となった。勝てば13日目にも、初優勝の可能性があった前頭熱海富士に快勝。6連勝で勝ち越しを決めた。平幕優勝を目指す力士の前に、割を崩して立ちはだかること今年だけで3度目。全て勝つ仕事ぶりに、取組を編成する審判部の信頼も厚い。4敗を守って自らの逆転優勝の可能性も浮上。大混戦演出の立役者となった。

現役最高峰の押し相撲が21歳の新鋭を圧倒した。大栄翔は立ち合いから、自身よりも14キロ重い181キロの熱海富士を突っ張って押し込んだ。土俵際まで押し込み、慌てた相手が前に出たところでタイミング良く引き落とした。11日目までに熱海富士が対戦したのは四つ相撲、または高安ら四つ&押しの二刀流力士。押し1本に特化した大栄翔のようなタイプは、今場所初対戦だった。手数、スピードで圧倒し「自分の相撲を取れた。100%の立ち合いをできれば押せると思っていた」と、胸を張った。

平幕優勝は許さない。役力士の意地が実績に表れている。今年に入って夏場所12日目にトップだった朝乃山、今場所11日目に1差2番手だった高安、さらにこの日の熱海富士と、いずれも優勝に近づいた平幕を関脇として撃破。番付通りなら対戦のない割を崩した取組編成は“壁になれ”という審判部から“依頼”。それを完璧にこなす姿は必殺仕事人の名がふさわしい。

これで2敗の熱海富士、3敗の貴景勝と高安に加えて、自身を含む7人の4敗勢にも優勝のチャンスが拡大した。大関とりの先場所は9勝止まりながら、今場所の成績次第で来場所、優勝なら今場所後の大関昇進の可能性も審判部は否定しない。「来場所につなげる意味でもあと3日。1番1番集中」。大逆転への風が吹き始めた。【高田文太】