大関経験者で初日から7日間休場していた東前頭筆頭の朝乃山(29=高砂)が、14日目にして会心の白星を挙げた。同じく大関経験者で東前頭2枚目の正代に、立ち合いすぐに左上手を引くと主導権を握った。右の差し手争いも制すると、鋭い出足のまま寄り切った。これで3勝4敗7休。復帰土俵の8日目に勝った貴景勝戦は受ける展開、2勝目を挙げた前日13日目の若元春戦は辛勝だったが、ようやく内容も伴った完勝を飾った。

正代とは先場所も14日目に顔を合わせていたが、その時はもろ差しを許して完敗していた。それだけに、この日の取組後は開口一番「先場所は2本差されて負けたので、しっかりと立ち合いで踏み込んだ。左(上手)が取れたのでよかった」と話し、雪辱の思いの強さをうかがわせた。

今月2日に亡くなった、入門時の師匠の先代高砂親方(元大関朝潮)と、最後に会話を交わしたのも、正代に負けた先場所14日目の打ち出し後だった。最後の助言は、入門時から何度も何度も言われ続けていた「前に出ろ!」だった。言葉通りの完勝。この日の取組後、朝乃山は「入門した時から(先代高砂親方に)『前に出ろ』というのは、それしか言われていないというぐらい言われてきた。前に出て寄り切れてよかった」と、故人に感謝を伝える白星となったことを喜んだ。

朝乃山は10月28日に、広島市で行われた秋巡業で左ふくらはぎを肉離れ。「左腓腹筋(ひふくきん)損傷で3週間の安静加療を要する」との診断書を提出し、7日目まで休場していた。取組後のケアは欠かさず、医師からは「再発しても責任は取れない」と言われるなど、完治はしていない。それでも出場したことについて、この日、あらためて「1つでも白星を積み重ねて、番付が落ちるのを抑えたい。あと、1番は本土俵の感覚を忘れたくなかったので」と力説した。相撲界では引く相撲はけがすると言われる。それだけに「前に出れば足への負担を減らすこともできる。今日のような相撲を取れば、明日につながる-。かもしれない(笑い)」と、好内容に表情も明るかった。千秋楽は昨年の九州場所覇者、小結阿炎と顔を合わせる。