大歓声が一瞬にして悲鳴に変わった。110年ぶりの新入幕優勝に王手をかけた尊富士(24=伊勢ケ浜)の故郷、青森・五所川原市では前日に続きパブリックビューイング(PV)が行われた。市役所庁舎には地元住民ら約300人が集まり、祖父の工藤弘美さん、祖母の洋子さん、母の石岡桃子さんの姿もあった。大関経験者の朝乃山に敗れて2敗に後退した後、周囲から「千秋楽で勝てばいい」と鼓舞する声が相次いだ。

大一番を前に心配なことは、尊富士の状況だ。取組後に右足を引きずり、付け人の肩を借りながら花道を引き揚げる様子が大型スクリーンに映し出された。母の石岡さんは直視できず、涙を流して手を合わせながら祈るような思いで見守った。「学生時代のケガがよみがえってきて…。今回のものがどれぐらい響くか。明日も出てくるかも分からないですし、気が気でないです」と振り絞るように言った。

4人きょうだいを女手一つで育てた。高校から親元を離れて相撲留学を選んだ次男らの経済的負担は「大変ですね」と打ち明けるも、本心は違う。「応援したかった」と背中を押してきた。子どもたちのために、今もダブルワークを欠かさない。この日も仕事終わりに駆けつけた。千秋楽は仕事も休み。14日目時点で尊富士の優勝が決まれば大阪入りも考えていたが、今は行くべきかどうか答えが出ていない。泣いても笑っても残り1日。果たして土俵に上がれるのか。「ただ、祈るしかないです」と無事を願い会場を後にした。【平山連】

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