大相撲で“待ったに次ぐ待った”と“とり直しに次ぐとり直し”が、約45分も続く事態が起きた。とはいっても、土俵上ではなく採血の話。日本相撲協会は5日、東京・両国国技館で健康診断を実施。前日4日から始まり、7日まで4日間にわたって行われる定期的なもので、この日は2日目だった。朝日山部屋の序ノ口錦丸(21)は、割り当てられた通り、午前11時に国技館内の相撲診療所に到着したが、帰宅の途に就いたのは午後0時25分ごろだった。1時間半近くもかかった裏には、分厚すぎる肉のために、血管が見つからないという、力士には時々起きるハプニングがあった。
錦丸が採血のために着席したのは、午前11時30分ごろだった。後ろで並んでいた幕内経験者で三段目の炎鵬も、悪戦苦闘する錦丸の様子を、ほほ笑みながら見ていた。次から次へと、後ろに並んでいた力士たちが、先に採血を終えていく。ついには誰もいなくなり、4カ所設けられていた採血所の残る3人の看護師も、錦丸を取り囲み、いっこうに見つからない血管が、どこにありそうかプチ会議が始まった。
すでに30分を経過しても“初手”の針が刺されず、錦丸は「適当でいいので、いっちゃってください」と、責任は自分が取ると潔く宣言した。意を決した看護師の1人が「ここだと思うんです」と話し、右肘裏に最初の一刺し。だがハズレだった。ならばと、すぐ隣に立て続けの“2手目”。これもハズレだった。
看護師たちは「そんなはずは…」と、ぼうぜん自失となった。もしかすると、肉が分厚すぎて血管まで到達していないのかもしれない-。錦丸は身長175センチで、体重は210キロ超という丸々とした体形。全員外部の健康診断の会場にいた看護師たちは、協議の結果、普段から力士に接している、相撲診療所の看護師に任せようという結論に至った。
場所を移して、仕切り直しの採血“3手目”。それまでと同じように「内科」の室内で撮影しようとした報道陣に向けて、相撲教習所常勤の看護師は「ここには入ってこないでください」とピシャリ。一気に緊張感が高まった。約15分後、錦丸は「終わりました~」と、笑顔で姿を現した。新たに右手の甲と、左上腕に止血のためのばんそうこうが張られていた。笑顔とは裏腹に、壮絶な戦いの跡が残っていた。
力士にとって、血管が見つからずに採血で苦戦することは珍しくはない。歴代最重量の292・6キロを記録し、18年に引退したロシア出身の元幕内大露羅は、約1時間も採血に時間を要したこともあった。
この日の錦丸は“採り直しに次ぐ採り直し”で、何とか、この日のうちに決着した。だが「2年前に千葉県で、7カ所ぐらい針を刺されて、腫れてしまったので別の日にまた採血しに行ったこともある」といった経験もあった。それだけに「ホッとした。採れなかったら、このままずっと、ここにいるのかと思った」と、胸をなで下ろした。
ちなみに、錦丸が採血を終え、後回しにしていた検尿も終えて、全ての健康診断のメニューをこなしたころには、当初、採血に当たっていた看護師は全員「お疲れさまでした~」と、帰途に就いていた…。健康診断とあって、空腹状態で来ていたため「おなかペコペコです」と苦笑い。待っていてくれた同部屋の三段目志摩錦とともに、千葉・鎌ケ谷市の部屋まで約1時間の道のりの間に、何か食べるか、部屋まで我慢するか、相談しながら帰途に就いていた。【高田文太】

