アルフレド・ヒチコック監督の「私は告白する」(53年)は、真犯人から強盗殺人の罪を告解された神父が、その事実を他言できないがために容疑者にされてしまう異色のスリラーだった。

 17日公開のイタリア映画「修道士は沈黙する」も、この「沈黙の誓い」がカギになっている。「私は-」の舞台はカナダ・ケベック市で随所にローカル色を感じさせたが、「修道士-」の舞台はG8(先進国首脳会議)の財務相ミーティングと国際的だ。主人公はカトリック教会の中でもっとも戒律が厳しいカルトジオ修道会の修道士。危ういほどドロドロした金融経済の最先端と、清廉の士のコントラストがより明解になっている。

 バルト海に面したドイツのリゾート地ハイリゲンダムの幾何学的な空港に丸い縁取りの修道服姿の男が降り立つ。G8の前日に催されるIMF(国際通貨基金)専務理事の誕生会にゲストとして招かれたサルス修道士だ。ミスマッチなオープニングで、決して周囲に染まらない立ち位置が浮き上がる。

 夕食会の後、サルスは専務理事ロシュの自室に呼び出され、告解を受ける。翌朝、ロシュはポリ袋を被って窒息死した状態で発見された。

 ポリ袋はサルスが私物のICレコーダーを入れていたものであり、レコーダー本体も紛失していた。そこには告解が録音されていたのか? 警察はサルスに疑いの目を向けるが、彼は「沈黙の誓い」に従い、真相に直結するであろう告解の内容を明かそうとはしない。

 会場の周囲は厳重に警備され、不審者が出入りした形跡はない。世界経済を精力的に先導してきたロシュに自殺の理由は見あたらない。誕生会に同席した人気童話作家のクレアは容疑が深まるサルスに同情し、真犯人捜しに動きだす。沈黙の誓いを破ることなく疑いを晴らすことは出来るのか…。

 国際会議を舞台にポリ袋を被った遺体…仰々しい設定はまるで謎解きに特化した2時間ドラマの題材だ。が、「ローマに消えた男」(13年)のロベルト・アンドー監督は舞台劇のように背景を限りなくシンプルにし、心理劇の要素をぐっと引き立てる。

 「ローマ-」に続いて主演した修道士役トニ・セルヴィッロが背筋をピンと張り、沈黙の重みを体現する。ほぼ動じない表情から不思議なほど悲しみや、かすかな喜びが伝わってくる。

 「ハリー・ポッター」シリーズの原作者J・K・ローリングさんをモデルにしたと思われるクレア役のコニー・ニールセンのちゃめっ気もいい。「ワンダー・ウーマン」(17年)でヒロインの母を演じた時のような高貴な感じもにじんで、各国首脳の権威をものともしない自由人の匂いが自然と伝わってくる。

 監督が張り巡らした凝った謎解きの果てに浮き彫りになるのは、景気浮揚のための金融政策が結果、格差拡大につながる皮肉な図式だ。寡黙だった修道士の最後の説教に思わず聞き入ってしまった。【相原斎】

「修道士は沈黙する」の1場面 (C)2015 BiBi Film-Barbary Films
「修道士は沈黙する」の1場面 (C)2015 BiBi Film-Barbary Films