「ラストサムライ」(03年)撮了後のエピソードを真田広之から聞いたことがある。

今では米映画界にしっかりと根を張った感のある真田だが、「あの時はこれが最初で最後のハリウッド映画になってもいいって思いで臨みました。殺陣はもちろん、時代考証でも気付いたこと、思ったことはどんどん言いました。編集にも立ち会って口出しもしました」と初体験の気負いを振り返った。

ハリウッド映画に登場する「日本」描写の違和感を少しでも正したいという思いだった。しつこく言った分「嫌われたかもしれない」という不安もあった。

だから完成後、スタッフの1人から食事に誘われた時は「あまりいい話ではないだろう」と思ったそうだ。が、恐る恐る行ってみれば、それはスタッフ全員がそろった彼への「感謝の夕げ」だった。「いつの間にか惰性で映画作りをしていた私たちに、あなたは初めて撮影所に行った時のフレッシュな感覚をもう1度味わせてくれました。ありがとう」そんなスピーチに涙が出たと照れくさそうに明かした。

6月18日公開の「モータルコンバット」(サイモン・マッコイド監督)にも、真田が関与したであろう「こだわり」が随所に感じられる。複雑ですさまじい殺陣に見応えがあり、冒頭に登場する「日本」には、わび・さびのようなものが漂っている。

「モータル-」は世界でもっとも売れた格闘ゲームの映画化だ。激しすぎるバトルや、トドメを刺す「フェイタリティ」の残虐描写で日本では未発売になっている。スプラッター映画のような場面の連続に、少々腰が引けてしまうところがあるのは確かだが、それでも目が離せないのは、立体的なアングルで捉えられた殺陣が往年の時代劇顔負けに多彩だからだ。

真田ふんするスコーピオンは忍者という設定だから、序盤から剣はもちろん鎖鎌の技まで、惜しみなく披露する。クレジットの順番は、真田が9番目、地球の守護者ライデン役の浅野忠信が4番目だが、強烈な存在感で、実態はかなり上位の印象だ。

「ソウ」シリーズを手掛けたジェームズ・ワンがプロデュースに参加しているからだろうか、随所に仕掛けがあり、サプライズもある。アクション映画として文句なく楽しめ、真田の雄姿が改めてうれしい。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)