鋭敏な聴覚を持つ怪物が支配する世界。音を立てたら殺される。生き残った人々は息を潜めて暮らしている。18年に公開された「クワイエット・プレイス」は異色のホラー作品だった。

18日公開の「-破られた沈黙」はその続編で、前作で夫と次男を失ったエヴリンは長女、長男、そして生まれたばかりの赤ん坊を抱えて、新たな避難場所を求めている。

「ターミネーター」のヒロイン、リンダ・ハミルトンが回を追うごとにたくましくなっていったように、エヴリン役のエミリー・ブラント(38)も恐怖にもまれて眼光ギラギラの感じになっている。

灰色の瞳が何しろ印象的だ。「プラダを着た悪魔」(03年)では意地悪そうで実はキュートな先輩アシスタントを好演した。吸い込まれるような瞳は「もうひとつの裏」を勘繰らせ、何事にも動じないようにも見える。目まぐるしく展開するストーリーの中で、どこか腰が据わっているように見えるのは、この瞳のせいかもしれない。

「ターミネーター」の「審判の日」に当たる怪物襲来時の様子が序盤で描かれる。この回想場面には今は亡き夫役(兼監督)のジョン・クラシンスキーも登場する。前作のヒットを受けてかなりの予算がつぎ込まれたのだろう。平和な街が怪物にじゅうりんされる様がリアルに描写される。時系列で言えば、前作を挟む形で襲来とその後という構成だ。

今回の見どころは、いつ泣きだすか分からない赤ん坊の存在。そして、すさんだ人々には悪意もある。怖いのは怪物ばかりではないのだ。たくましくなったエヴリン一家は数々の難題を乗り越えることができるのか。

前作でも感じたが、クラシンスキー監督はビックリハウスのような仕掛けの作り方がうまい。大技小技がさえている。終盤は家族が離れ離れになり、2カ所で同時進行する「タイムサスペンス」に思わず手汗をかいた。

第3作もありそうな気がする。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)