80年代に「日本人離れしたボディー」で脚光を浴びた烏丸せつこ(66)が34年ぶりに映画主演した。22年1月15日公開の「なん・なんだ」で、夫に隠れ、長年にわたって愛人との関係を続けるしたたかな妻役を好演している。数々の「修羅場」をくぐり抜けてきたこの人らしく、公開前のインタビューで本音むき出しに語ってくれた。

本音で語る烏丸せつこ
本音で語る烏丸せつこ

-劇中では、夫(下元史朗=W主演)と愛人(佐野和宏)それぞれに全共闘世代ならではの背景があり、烏丸さん演じる妻も戦後の悲しい過去を引きずっていますね。

「なんか古くない? 安田講堂がどうたらこうたら言っても、若い人は分からないよ。『俺は命懸けで戦った』なんてセリフが出てくると、正直くっさーって思ったし、妻が愛人に会いに行く理由が、夫が(性の)求めに応じてくれなかったからって、死のうとまで思ったって。キモッて思っちゃった。あそこのセリフは棒読みになっちゃったかもしれない」

-いきなり出演作に容赦ないですね(笑い)。でも、男性側からすれば、さして考えずに求めを拒んだことが、そこまで妻を追い詰めたのかと、ドキリとさせられるエピソードでした。むしろ妻側が何十年も愛人関係を隠せたことの方が不思議でした。

「結婚して何年か経てば、夫はだんだん嫁を抱かなくなるし、嫁は他のことに喜びを見いだすようになることってよくあると思う。それが『愛人』とは限らないけど、夫が知らないだけで、何十年も他の男性と関係持っている人、私知っているよ。そこはあんまり不思議に思わなかったなあ」

80年に第6代クラリオンガールとなった烏丸は圧倒的なボディーで脚光を浴び、同年の「四季・奈津子」、翌年の「マノン」と立て続けに映画主演。絶頂時の27歳の時に21歳上の映画プロデューサー田中寿一氏と結婚した。略奪婚だった。

-なんだかんだ言っても、烏丸さんだからこそ、この三角関係の真ん中の役がしっくりくるんじゃないですか。

「それはそうかも。いかにもって設定だし、だからこそやりたいと思ったのは確かです。実はセリフの不自然に感じる部分は現場で変えてくれるかなと思っていた。こういうこぢんまりした映画はみんなで意見出し合って作っていくのがいいところじゃない。でも、(26歳下の)山嵜晋平監督はいくら言っても結局変えてくれなかった。終盤の『もうあんたの面倒はみないから!』とたんかを切るところは気持ち良かったし、感情も込められたんですけどね。私としては、夫の面倒もみないし、愛人のところにも帰らない。そんな終わり方の方が、妻のたくましさが出るし、女の視点としてはその方が気持ち良かった。でも、この映画にはその先があるからね…」

-そう言われると、烏丸さんが言うエンディングの方が、女性としては納得が行くだろうし、今風の作品に仕上がったかもしれないと思えてきますね。

「そうそう。その方がステレオタイプに収まらないし、オバチャンたちの共感を得られるし、オッチャンたちは身につまされて、面白い作品になったのにねえ。だけど、だから嫌なのよ。こういう取材を受けるのは。作品は監督が語るもので、役者が勝手にいろいろ言うと変な風になってきちゃうから」

「なん・なんだ」の1場面 (C)なん・なんだ製作運動体
「なん・なんだ」の1場面 (C)なん・なんだ製作運動体

-いや、烏丸さんらしくこの作品の魅力を語っていただいていると思いますよ。そう言わずにもう少し話を聞かせてください。女優デビューからもう41年になりますね。

「ご存じの通り、いろいろあったし、10年くらい休んだ時期もあった。(田中氏と)別れてから、食わなきゃいけないから、いろいろ出だしたわけだけど」

結婚9年目に田中氏の会社経営がうまくいかなくなり、その10年後、46歳の時に離婚。10代の2人の娘を独り抱えることになった。

「別れた後が一番つらかった。寿一さんはいい人だけど、子どもたちには何もしてくれなかったから。食べるために2時間ドラマの仕事をもらったんだけど、それこそ目立たない役。枯れた部分も求められた。でもね、演出を担当したのはたいてい若手の映画監督で、彼らは映画の撮り方で懸命に仕事をしていたんですよ。デビューの頃には分からなかった映画の面白さがその頃になってだんだん分かってきたんですね」

-一昨年には「スカーレット」でNHK連続テレビ小説に初出演しました。デビュー当時をイメージさせるキャラクターに懐かしさも感じました。

「脚本家の方が当て書きしてくれた部分もあると思います。実はクラリオンガール(80年6代目)に選ばれる前は何度も朝ドラオーディションを受けていて、いいところまで行って、ヒロインの妹役はどうですかとか、打診されたこともあったんです。でも当時の事務所が『主役』にこだわって結局はダメだったけど」

-最近では脇役からブレークしたり、数年後にヒロインにグレードアップしたりと「朝ドラ脇役」は貴重な足掛かりですよ。

「そうなの? なら、やっとけば良かった。こんなキャラにならなくて、ちゃんとした朝ドラ女優になっていたかも(笑い)」

今は娘たちも30代になり、自身は7年前に2歳下のレコードディレクターと再婚した。

-ずっと本心を隠し通している今回の役柄は、烏丸さんの生き方とは正反対ですが、とてもリアルでした。いろんな経験が糧になったのではないですか?

「何言ってるの。全然成長してないよ(笑い)。でも、今が演じることが一番楽しいかも」

【相原斎】

エネルギッシュに語る烏丸せつこ
エネルギッシュに語る烏丸せつこ

◆烏丸(からすま)せつこ 1955年(昭30)2月3日滋賀県生まれ。80年第6代クラリオンガール。圧倒的なボディーで、ファッション史研究家の川本恵子氏は「彼女に衣装はいらない。裸が最高」と評した。14年に再婚した現夫はディレクターとして坂本冬美、由紀さおりを担当。

(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)