明け方の病院に取り乱した女性が車で乗り付ける。昨夜の雪が残った駐車場をはだしで歩き、重傷を負った「姉」を担ぎ込む様子は尋常ではなかった。

病院の通報で駆けつけたベテランの女性警察官ヒョンジェに、ドギョンと名乗ったその女性が昨夜の出来事を語り始める。

4月24日公開の「白い車に乗った女」は。謎だらけの幕開けで一気に引き込む。

ドギョンによれば、自分は作家で、姉の暴力的な婚約者から2人で逃げてきたという。

だが、調べてみると「姉」という女性はまったくの別人であり、ドギョンの体には虐待の痕跡がある上、精神疾患の病歴があった。

ドギョンの実際の姉や暴力的という婚約者はどこに行ったのか。謎が深まる中、「姉」と言われた女性が目を覚まし、担ぎ込まれたいきさつを語り始める。その証言はドギョンの話をほぼ裏付けたが、微妙な食い違いもあった。やがて、人里離れた場所にあるドギョンの家の周辺から遺体が発見される。

ドギョン同様に虐待を受けた過去を持つヒョンジェは寄り添うようにその心の奥に迫っていくが…。

当事者たちの証言の食い違いが真相を見えにくくする様に黒澤明監督の「羅生門」を思い出す。米デューク大学で心理学を学び、これが長編デビューというコ・へジン監督は、事実部分と私見である証言部分で映像の縦横比を変え、フェアプレーの立ち位置から観客に謎解きをうながす。それもあって、予想の当たり外れにかかわらず、どんでん返しに納得がいく。

時間を追って、10代の頃に天才作家としてもてはやされたドギョンの過去が明らかになり、その代表作「白い車に乗った女」が事件解明のヒントになっていく。

ドギョン役は人気ドラマ「私の名前はキム・サムスン」のライバル役を演じたチョン・リョウォン。不安定な心理状態の中で時折正気に返る瞬間が分かりやすい。監督のフェアプレー精神を体現する堅実な演技だ。

警察官ヒョンジェには「パラサイト 半地下の家族」で家政婦役を好演したイ・ジョンウン。人懐こい風貌の中に洞察力をにじませ、今作でも味がある。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)