ハリウッドは今、「オスカー荒らし」と呼ばれた大物プロデューサー、ハーベイ・ワインスタイン氏が過去30年間にわたって多数の女優やモデルらにセクハラや性的暴行を加えてきたというニュースで持ちきり。ニューヨーク・タイムズ紙が今月5日、同氏の過去のセクハラ行為を報じたことを発端に次々と女優やモデルが「自分も被害を受けた」と名乗り出て、事態は映画界のみならず政界までも巻き込むスキャンダルに発展しています。これまで長年にわたって権力をかさに着たワインスタイン氏から理不尽な扱いを受けてきた人たちの怒りが一気に爆発したかのような状況の中、被害者にアンジェリーナ・ジョリーやグウィネス・パルトロウら大物女優も含まれていたことからその衝撃は大きく、ジョージ・クルーニーやトム・ハンクスら大物俳優からも批判の声が殺到。ワインスタイン氏は自身の映画会社をクビになり、さらにはアカデミー賞を主催する米映画芸術アカデミーからも会員資格をはく奪されるなど、窮地に追い込まれています。ところで、そもそも映画界のドンと言われるワインスタイン氏とは何者なのでしょう。

 ハリウッドで多大な影響力を持つと言われるワインスタイン氏は、「恋におちたシェイクスピア」(98年)や「シカゴ」(02年)でプロデューサーとしてアカデミー賞作品賞を受賞するなど数多くのアカデミー賞作品をこの世に送り出してきたことで知られ、オスカーノミネーションはのべ300以上と言われています。1979年に両親の名前を冠にした製作会社「ミラマックス」を弟と共同で設立。スティーブン・ソダーバーグ監督の「セックスと嘘とビデオテープ」(88年)や俳優ダニエル・デイ=ルイスがアカデミー賞主演男優賞に輝いた「マイ・レフト・フット」(89年)などのヒットをきっかけに急成長。90年代には「パルプ・フィクション」(94年)や「イングリッシュ・ペイシェント」(97年)、「グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち」(97年)など数々のオスカー受賞作や候補作をこの世に送り出し、2005年にミラマックスを去るまでに249ものアカデミー賞ノミネートを獲得しています。しかし、この当時からごう慢な態度が目立ち、駆け出しの女優や女性社員にセクハラ行為などを行っていたと言われています。ミラマックスを退社した兄弟は、新たにワインスタイン・カンパニーを設立。その後も「英国王のスピーチ」(10年)や「アーティスト」(11年)などアカデミー賞受賞作品を輩出し続けてきました。

 90年代に活躍した女優アシュレイ・ジャッドやローズ・マッゴーワンらがニューヨーク・タイムズ紙の記事で被害を実名で告白したことにより、かつてはゴシップ誌の記事だった公然の秘密が世間の注目を浴びることとなったのです。セクハラを受けたと報告したことでワインスタイン社から解雇された女性やすでに示談が成立している被害者も複数いることが発覚したほか、その後に発売されたザ・ニューヨーカーの記事ではレイプされたと訴える女性まで登場。自らの地位と権力を使って脅し、立場の弱い若い女性たちにセクハラ行為をしてきたことが暴かれました。パルトロウは、22歳の時に主役に抜擢された「エマ」(96年)の撮影前にホテルのスイートルームでの打ち合わせに呼ばれ、ベッドルームでマッサージを求められたと証言。「まだ子供で、契約があり、恐怖で固まってしまった」と語り、役を降ろされないか不安だったと明かしています。また、モデルのカーラ・デルヴィニュも、ワインスタイン氏が製作した映画に出演した際にホテルの部屋に誘われたことや、他の女性への性行為などを自慢げに話していたことなどを告白。また、ジョリーも「マイ・ハート、マイ・ラブ」(99年)で一緒に仕事をした際に嫌な思いをし、「2度と一緒に仕事はしないことにした」と語っています。

 そんなワインスタイン氏は、バラク・オバマ前大統領や民主党の大統領候補だったヒラリー・クリントン氏らとも親交が深く、自身の自宅で政治資金集めパーティーを催すなど多額の献金をしていることで知られています。また、オバマ前大統領の長女マリアさんは今年初め、ワインスタイン・カンパニーのニューヨークオフィスでインターンとして働いていました。共和党はワインスタイン氏からの献金を放棄するように民主党に求めるなど政界にも今回のスキャンダルは大きな影響を及ぼしています。

 長年にわたるパートナーだった弟のボブ氏は、「この5年間で兄と個人的な会話をしたのは10回くらい」と語り、自身も度々言葉の暴力を受けて疎遠になっていたことを明かしています。しかし、肝心のセクハラ疑惑については「妻がありながら他の女性に手を出していたことは知ってはいたものの、ここまでひどいとは思っていなかった」とコメント。07年に再婚した妻でアパレルブランド「マルケッサ」のデザイナー、ジョージナ・チャップマンさんは即座に離婚を申請し、幼い子供たちを守ることに尽力しています。ワインスタイン・カンパニーは一連のスキャンダルによるダメージで倒産や身売りも取りざたされており、今後はプロデューサー組合からも除名される可能性もあり、ハリウッドから永久追放される日も近いかもしれません。

【千歳香奈子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「ハリウッド直送便」)