黒柳徹子(84)は女優として続けてきた唯一の公演「海外コメディ・シリーズ」が、今秋でファイナルとなる。同シリーズは1989年にスタートし、30年間で32作品を上演してきた。黒柳にとって、76年から42年間も続いているテレビ朝日「徹子の部屋」と並び、ライフワークと言えるほどに大事にしてきた公演だ。

 同シリーズを始める前、黒柳は女優としてドラマにも出ていた。もともとテレビ女優第一号の1人だったが、舞台出身者のレベルの高い演技に、劇団で勉強したいと、杉村春子さんがいた文学座の付属演劇研究所に入所した。71年にミュージカル「スカーレット」に出演した時、ブロードウェーから来日したスタッフと仕事をしたことで、海外で勉強したいとニューヨークに1年間留学。演劇学校やダンス学校で学んだ。

ミュージカル「スカーレット」の制作発表記者会見の黒柳徹子(1969年8月29日撮影)
ミュージカル「スカーレット」の制作発表記者会見の黒柳徹子(1969年8月29日撮影)

 女優を天職と思っていた黒柳だが、若尾文子と共演したドラマで芸者役を演じた時には、ほろ酔い加減の演技が真に迫っていた。「撮影の合間に小道具さんがやってきて、『本当は飲んでるんでしょ』と言うんです。普段でもお酒が飲めないのに、うまくやると、本当に飲んでいると思い込んじゃうのね。テレビで悪女役を演じたら、視聴者は『徹子の部屋』を見ながら、『本当は悪女なのに、真面目に人の話なんか聞いちゃって』と思うってことじゃない? それは良くないなあ」と思ったという。さらに、当時40代の黒柳が依頼される役も偏っていた。「お母さん役とかばっかりで、お母さんでもおばあさんでもない、変なお姉さんの役とか全然ないの」。そのため、女優としての仕事は舞台だけと決めたという。

 同シリーズでは山岡久乃、フランキー堺らと共演し、「喜劇キュリー夫人」でノーベル賞受賞のキュリー夫人、「マスタークラス」で美貌のオペラ歌手マリア・カラス、「マレーネ」で大女優ディートリヒと多彩な人物を演じてきた。

舞台「想い出のカルテット」で、車イスで演技する黒柳徹子(2017年9月28日日撮影)
舞台「想い出のカルテット」で、車イスで演技する黒柳徹子(2017年9月28日日撮影)

 昨年8月末に大腿(だいたい)骨を骨折しながら、9月末からの舞台を車いすで演じきった。くしくも、ファイナルを飾る「ライオンのあとで」(9月29日~10月15日、東京・EXシアター六本木)は、大女優サラ・ベルナールが片足を切断した後に舞台に出る話だ。シリーズはファイナルを迎えるが、黒柳は「舞台のお話があって、やってみたいものであれば」と、舞台をやめる気持ちはない。「徹子の部屋」は50周年まではやるつもりで、その時は90歳を超えている。敬愛する女優森光子さんは89歳まで舞台に出演していたが、黒柳なら、90歳を超えての舞台もありそうな気がする。【林尚之】