いろいろな意味で注目を集めた東京オリンピックの開会式が23日夜、行われました。IOCのバッハ会長の13分に及ぶ、「選手ファースト」とは真逆の長いあいさつにはへきえきし、天皇陛下の開会宣言が始まった時に隣で座っていた菅首相と小池都知事が、途中で慌てて立ち上がった姿には笑った。ショーパフォーマンス以上に記憶に残るシーンだった。

肝心のショーは、過去の開会式にはどんなものが飛び出すかというワクワク感があったけれど、今回はそれが希薄だった。森山未来の鎮魂のダンスも、熊谷和徳のタップダンスも素晴らしかったし、1824台のドローンを使った五輪エンブレムや地球の再現などは幻想的で美しかった。ただ、映像が多く、意味不明のテレビクルーの登場などには興ざめした。選手入場で流れた曲は、日本発の人気ゲームソフトの音楽だったようだけれど、ゲームに疎いおじさんにはあまり響かなかった。

市川海老蔵も歌舞伎十八番の「暫(しばらく)」の勇壮な武者姿で登場し、見えを切っていたけれど、自身の出演は直前まで内緒にしていた。頻繁に更新するブログでも登場の1時間前には2人の子供がテレビ観戦する姿をつづり、自らも自宅で一緒にいるかのように装うなど、秘密保持には苦心したようだ。

そして、今回のショーで一番得をしたのは登場時間の長さ、話題となった点でも、オリンピック競技の50種類のピクトグラム(絵文字)を表現した、パントマイムの「がーまるちょば」のHIRO-PONとGABEZ(ガベジ)の3人だろう。がーまるちょばは言葉を使わないサイレントコメディーのディオとして1999年に結成され、世界的に活躍したけれど、2年前に相方のけっち!が脱退。以降はHIRO-PON一人ががーまるちょばを担って活動していた。GABEZの2人はがーまるちょばの弟分で、パントマイムとダンスを組み合わせた「ダンス&サイレントコメディー」で海外でも活躍した。3人とも国内での知名度はいまひとつだったけれど、これで一気に出演オファーなどは増えるだろう。がーまるちょばは、過去のコントが問題視されて解任された演出担当の小林賢太郎氏の番組に出演するなど交流があり、今回の演出スタッフにも名前を連ねていた。全体的に経費を削減した、省エネの開会式だったけれど、見る人に強い印象を残したのが、もっともお金のかかったドローンと、お金のかからなかったパントマイムだったのは皮肉だった。【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)