歌声を聞いて驚いた。「こんなに歌える人だったんだ」と思った。28日に発表がある米アカデミー賞に日本映画として初めて作品賞にノミネートされた映画「ドライブ・マイ・カー」に出演している三浦透子(25)。そんな彼女が出演しているミュージカル「手紙」(27日まで)を見た。

「手紙」は東野圭吾の同名小説を原作に、「アナと雪の女王」などディズニー作品の訳詞で知られる高橋知伽江の脚本・作詞、深沢桂子の作曲・作詞、藤田俊太郎の演出で2016年に初演され、今回が3度目の上演だった。

三浦が演じるのは由実子。兄が強盗殺人を犯したため、唯一の肉親である直貴(村井良大)は周囲からさまざまな差別を受ける。進学、就職、結婚、そしてバンド活動で幸せをつかもうとしても「強盗殺人犯の弟」という逃れられない運命が立ちはだかる。獄中の兄からの手紙を拒否し、自暴自棄になる直貴に出会い、支えるのが由実子だった。彼女が歌う1曲目「恋心」に衝撃を受けた。「振り返れば いつでもそばにいることをわかってほしい 恋心そっと抱きしめて 凍り付いたほほえみ溶ける季節が来ると 信じて待つの」。温かく、優しく、ピュアな歌声に歌詞の1つ1つが心に沁み込んだ。思わず涙が出てきた。直貴への強い思いにあふれていて、この彼女がそばにいる限り、直貴は必ず立ち直れる、強く生きていけると思わせる説得力のある歌声だった。

観劇した後に調べてみたら、本格的なミュージカルは初めての出演だけれど、すでに歌手として活動しており、19年公開の大ヒットアニメ映画「天気の子」の主題歌を歌っていたことを知った。

放送中のNHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」で主人公ひなた(川栄李奈)の親友一恵を演じているが、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」で源義経(菅田将暉)の正妻・里役での大河初出演や、6月には舞台「secret war-ひみつせん-」の主演も決まっている。まさに旬の女優です。今後も映画、ドラマ、舞台で幅広く活躍するだろうけれど、出来れば、またミュージカルに出て、あのすてきな歌声を聞かせてほしいものです。【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)