浪曲の玉川太福(45)が1月の新宿・末廣亭の下席(21~30日)夜の部で初めて主任興行を行った。寄席で浪曲師がトリを務めるのは実に60年以上ぶりの快挙で、今はない川崎演芸場で2代目広沢菊春が1960年にトリをとって以来という。トリをとることを12月に自らのXで明かした際、太福は「『10年早い』と言われそうですし、私もそう思います」としながら、「しかし芸人稼業、『すべてはご縁…!』と、お引き受けさせていただきました」とつづり、最後は「10日間とにかく来てくださいいいい!」としめくくったけれど、結果は連日超満員だった。

私が24日の中入り後に行ったけれど、2階席も開放して満員だった。辛うじて、1階席で偶然空いた席に座ることができたけれど、後から来た人は立ち見だった。トリで登場すると、客席からは大きな拍手と「待ってました!」のかけ声が飛んだ。行った日は、山田洋次監督のお墨付きの「男はつらいよ」シリーズから「夕焼け小焼け」。マドンナ役は太地喜和子、宇野重吉が出演していた。90分のストーリーを30分ほどに巧みにまとめ、大満足だった。翌25日に行った人に聞くと、札止めで入れなかったという。

太福は千葉大法経学部出身で、当初はコント作家を目指したけれど、浪曲の迫力に魅了され、2007年3月に玉川福太郎のもとに入門した。日本浪曲協会と春風亭昇太会長の落語芸術協会に所属し、寄席にもよく出ている。古典だけでなく、「地べたの二人」シリーズなどの新作も手がけ、若いファンも多い。その実力は文化庁芸術祭大衆芸能部門新人賞、浅草芸能大賞新人賞を受賞するなど、折り紙付きだ。

かつては庶民の間で絶大な人気を誇り、昭和初期には全国に浪曲師は3000人を超えたが、戦後は低迷していた。しかし、昨年、関西の大御所京山幸枝若(70)が人間国宝に認定され、若手浪曲師も増えている。今回の10日間満員という快挙に、浪曲界にますます追い風が吹きそうだ。【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)