警視庁組織犯罪対策5課に麻薬取締法違反容疑で逮捕された沢尻エリカ容疑者(33)が所持したとされる違法薬物「MDMA」について連日、いろいろと報じられている。

筆者自身もだいぶ前、東京・新宿歌舞伎町でこのMDMAについて聞き、本紙で同薬物について書いた記憶があったため調べてみたところ、今から21年前の1998年5月に記事化していた。

当時、国内に出回り始め、性犯罪などに悪用されていた「GHB(ガンマーヒドロキシ酪酸)」なる睡眠薬(=01年に麻薬指定)など、新型の脱法ドラッグや違法ドラッグの記事を書くため歌舞伎町、渋谷、六本木など繁華街でいろいろ聞き回っていた際、薬物事情に詳しいという歌舞伎町関係者が「GHBも危ないですが、間違いなく今後MDMAが流行し、広まりますよ。通称エクスタシーと呼ばれている麻薬です」と断言していたのだ。

MDMAは89年に麻薬指定されており、98年の時点で存在は知られてはいたものの当時、摘発例は非常に少なかった。

厚生省麻薬課(当時)に取材したのだが、MDMA単独所持での日本における逮捕は95年が1件、96年が0件だった。カプセルや錠剤などで出回っているMDMAの末端価格は現在、1錠数千円とも4000円前後とも言われるが、98年の時点でこの歌舞伎町関係者が言うには「密売人は今、1錠7000~8000円、3錠セットで2万円くらいで購入を持ち掛けている」とのことだった。

そしてこの関係者は「今年(=98年)の始めごろから新宿界隈で薬物の密売人が、クラブなどでMDMAを売り始めている。口コミで客を増やしており、すごい勢いで広まっている。新宿では女性客が多いようだ。MDMAではないが、『エクスタシー』という商品名が付く合法ドラッグが複数流通しているため、MDMAは違法麻薬なのに、合法ドラッグを飲むかのような軽い気持ちで手を出す人が多いのではないか。当然、逮捕者も急増していくでしょう」と続けていた。

実際、MDMAによる摘発や押収量はその後急増。十数年前をピークに一時減少したが、近年再びかなりの勢いで増加していたところ、今回の沢尻容疑者の逮捕が起きたという流れだ。

押収量の第一次ピーク期直後ごろだったと思われる08年12月、すなわち11年前にも、取材の過程で「MDMA」の名を聞いたことがあった。というより、路上密売人に、MDMAなどの購入を持ち掛けられた。

クリスマスの夜、東京・渋谷のにぎわいや街ネタを取材していたのだが、若者が多いエリアの路地で30代くらいの外国人数人のグループと目が合った。妙にアイコンタクトしてくるので、道でも聞かれるのかと思い目をそらさずにいたところ、うち1人のニット帽を被った男が「ナニホシイ?」と声をかけてきた。

「は、はい…? “ナニホシイ”って言われましても…」と当惑していると、その男、「クサ、バツ、スピード…あるよ」と言ってきたのだ。

すべて薬物の隠語で、クサは大麻、バツはエクスタシー=MDMA、スピードは覚醒剤だ。男はエジプト人で2週間前に来日したと自称。自分から声を掛けてきたのに、やたら周囲をきょろきょろ警戒し「あなた警察? ダイジョブ?」と聞いてきた。

そして「バツ」について1錠5000円と提示し(※大麻は1グラム5000円、覚醒剤は0.1グラム1万5000円)、購入する意思を一切見せていないのに一方的に携帯電話番号を書いた紙を強引に渡してきて「(東京の)白金高輪に移動して、そこからこの携帯に電話して。ボブという男が電話出るから」と告げてきたのだ。

繁華街で購入希望者をキャッチし、目立ちにくい高級住宅街などで取引するという密売手法だったと思われるが、覚醒剤、大麻とともに当たり前のように「バツ=MDMA」を提示してきたことで、98年に聞いたMDMAが結局、広まったのだと感じた。

取材の一環でこの携帯電話に電話してみたが、「ボブ」と思われる男が、自称エジプト人と同じく「ナニホシイ?」とだけ言ってきて、こちらが返答しないと「10分後にかけ直して」と言ってすぐ切られた。そしてその後、電話はつながらなくなった。ちなみにこの外国人らと思われるグループはその後、摘発されたと記憶している。

MDMAはカラフルな色がついたり、マークが刻印されたものなどが流通し、一見「ライトな雰囲気」を装っているような錠が目立つ。高揚感や一体感が強まる作用もあるとされることから、一部のクラブやレイブなどで集団で使われたり、性行為の際に使用される「パーティードラッグ」「セックスドラッグ」の側面がある一方で、精神錯乱、記憶障害、内臓機能障害などの深刻な副作用をもたらすことがあるほか、ショック症状で死亡することもある極めて危険な薬物だ。

沢尻容疑者の逮捕をうけ今後、MDMAをめぐる摘発件数、そしてその押収量に変化があるのか、これも注視していきたいところだ。【文化社会部・Hデスク】