京都・龍安寺の石庭は幅25メートル、奥行き10メートルと意外に狭い。不思議に心が和むのはそこに無限の広がりを見て、日頃のトラブルが小さく思えるからだろう。

 画家熊谷守一(1880~1977年)も、限られた空間に宇宙を見ていた人だ。後半生の45年は豊島区の自宅にこもって過ごし、物事の本質をシンプルを極めた筆致で表現した。

 映画は94歳の夏の1日にスポットを当てる。うっそうとした草木に囲まれた守一は、そこにいる生き物をひたすら観察する。周辺ではマンション工事が始まり、看板に一筆もらおうと旅館の主人が訪れる。

 絶え間ない人の出入りをさばくのが妻の秀子で、仙人のような守一と世間のつなぎ役になっている。

 アリの行列に見入る守一は庭と一体化し、来訪者をぎょっとさせる。山崎努の眼力に改めて驚く。射抜くように生き物を見る目は自身が「大好きなモリカズさん」に成り切っている。

 これが初共演というのも驚きだが、秀子役の樹木希林が世事にたけたツッコミ役に徹してバランスを取る。アドリブを交えた庭いじりの動作が面白い。巧者2人のコラボが絶妙で、何度でも見たくなる作品だ。【相原斎】

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