人類初の月面着陸成功はちょうど半世紀前だ。アポロ11号のアームストロング船長が降り立つテレビ中継は、映像や音声の粗さにかえって重みがあった。翌年の大阪万博には「月の石」を見に行った。

NASAの巨大施設や宇宙船に搭載された当時のコンピューターの能力は、全部合わせても私たちのポケットに入っているスマホにかなわないという。単純に感動した歴史的1歩の裏には、信じられないくらい複雑な人間力の積み上げがあったのだ。「ラ・ラ・ランド」の名コンビ、デイミアン・チャゼル監督とライアン・ゴズリングが「奇跡のような偉業」へのハラハラを克明に再現している。

冒頭は、空軍テストパイロットだったアームストロングが円筒形の実験機に乗り、宇宙の際まで上昇するシーンだ。すさまじい揺れと重圧で「点火されたブリキ缶」と揶揄(やゆ)された当時の技術レベルを実感させる。時計を巻き戻す。

へどを吐く訓練、同僚の事故死、そして愛娘の死…。ゴズリングの遠くを見る目が印象的だ。なぜ彼が世紀のミッションに選ばれたのか。強い意志が運命を引き寄せる様が、濃密な映像から見えてくる。【相原斎】

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