自主製作映画「岬の兄妹」では脚が不自由な兄と自閉症の妹のむき出しの欲望と性、貧困を描き、国内外から高い評価を得た片山慎三監督。あの衝撃から3年、新進監督の商業映画デビュー作は、これまた凄絶(せいぜつ)だ。

「お父ちゃんな、指名手配中の連続殺人犯見たんや。捕まえたら300万もらえるで」。そう言い残した父親が突然、姿を消す。中学生の1人娘が懸命に捜すが、やがて連続殺人犯と遭遇する。重層的で先が読めない物語が、日雇い労働者の街、大阪市西成区・釜ケ崎(あいりん地区)を舞台に繰り広げられる。

失踪した父・原田智(佐藤二朗)、娘の楓(伊東蒼)、指名手配犯(清水尋也)、この3人の演技がすばらしい。佐藤は底知れないすごみとおかしさが同居する。難役だが、伊東の演技には深みがある。清水は独特の存在感を放つ。描かれる西成の街は生々しい。

片山監督は「パラサイト 半地下の家族」で米アカデミー賞を受賞したポン・ジュノ監督の下で助監督を務めた。嘱託殺人、尊厳死、貧困…。心の奥底にあるもう1つの感情。目を背けたくなるシーンもあるが、見なければいけない。【松浦隆司】

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