20年の「ミッドナイトスワン」で日本映画界を席巻した内田英治監督が、警察音楽隊のYouTube映像に感銘を受けて書き上げたオリジナルの脚本は、同監督らしく人間くささ、人間への愛がちりばめられている。加えて音楽映画だからと吹き替えなしを求め、楽器を触ったこともない主演の阿部寛をはじめ出演陣が特訓し、演奏シーンは全て自ら演奏。血肉の通った人間ドラマとエンターテインメントが絶妙なハーモニーを奏でる1本となった。

鬼刑事の成瀬司(阿部)は、アポ電強盗事件の主犯の手下とにらむチンピラを礼状もなしに締め上げる一方、署内でも高圧的な態度で浮き、ハラスメント対策室への投書で警察音楽隊への異動を余儀なくされる。出向いてみると、巡回との兼務などでやる気がない団員だらけの実態にがくぜんとする。

見どころは、刑事一筋30年ながら捜査の現場から切り捨てられた成瀬が、同僚やファンの声に背中を押されて真剣にドラムに向き合っていく、そこからの物語。成瀬は自らの人生だけでなく、その姿勢で、はぐれ者集団だった音楽隊をも変えて、1つにしていく。

どんなに頑張っても報われないと感じる、真面目な人へのエールとなる作品だが、むしろ正論を貫き、全力を注ぐ少数派を煙たがり、その意見に耳も貸さない組織や管理職こそ必見の1本だ。映画館で見て、胸に手を当てて考えて欲しい。【村上幸将】

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