89年に公開されたアニメ版は、「眠れる森の美女」のオーロラ姫以来、30年ぶりに「ディズニープリンセス」が登場した記念碑的作品だった。あの愛らしいアリエルを実写版ではどう描くのか。リアルなうろこや尾びれは見たくない。そんな思いに沿うように虹色ドレスのようなファンタジックな描写に引き込まれる。

薄いピンク色の肌だったアニメから一転、演じるのはアフリカ系の新人ハリー・ベイリー。多様性が社是のようになっているディズニーらしいキャスティングだ。ビヨンセが認めた本業歌手の伸びる歌声といい、魔女アースラ(メリッサ・マッカーシー)が劇中で「魚顔」と冷やかした小顔といい、すんなりと原作世界に溶け込んでいる。

そのアースラの下半身はリアルなタコで、アリエルとは対照的にグロテスクな描写がこの作品のダークサイドを際立てている。

王子役ジョナ・ハウアー=キングのお人よしの感じや、アリエルの父トリトン王ハビエル・バルデムの威厳…老若巧者がアニメ版のキャラクターに寄せ、作品の安定感を支えている。ロブ・マーシャル監督による大団円は、分断の世界情勢への皮肉のように見えた。【相原斎】

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