パワフルなハイトーンボイスが、人々の心を震わせている。歌手LiSA(33)。アニメ「鬼滅の刃」シリーズのテーマ曲「紅蓮華」「炎(ほむら)」が次々とヒット。4月にはソロデビュー10周年の節目を迎えた。老若男女に知られる存在になった今も、ある言葉を胸に歌い続けている。

★不安そりゃあった

「今日もいい日だっ。」

幸せを探すのが苦手だったという“ませた”少女がSPEEDに憧れ、歌手を志し、ソロデビューして10年を迎えた。誰もが知るヒット曲が生まれ、日本を代表する歌手になった今も、いつも心にある言葉だ。

「20歳で上京をする前に、不安や焦りが募っているのを見かねた母から突然『今日もいい日だって言ってみな?』と言われて。人に感謝することだったり、何でもいい。その日良かったことを昔はブログで、今はノートに毎日書き続けてます。今では、私がちゃんと生きましたという足跡になっていますね」

“LiSA”というソロ歌手として歩き出した時から、変わらない思いもその言葉に通ずる。

「LiSAとして最初に作ったのが『Believe In Myself』(デビューアルバム『Letters to U』に収録)という曲で、『聞いてくれた誰かが今を愛せたらいい』というテーマを決めて活動をスタートしました。今も、聞いてくれた誰かの『今日もいい日だっ。』と思ってもらえるきっかけの1つに自分がなれたら…という思いです」

その思いをより強くさせるターニングポイントがあった。14年1月3日。単独で初めて立った日本武道館のステージだ。それまでは、MCを一言一句暗記して臨むなど、完璧な歌手像ばかりを追い求めていた。

「初の武道館で体調を崩してしまって、うまく歌えなくて…。その時はそこにいた全員がいなくなると思ったんです。でも、みんな最後まで一緒に歌って応援してくれて…。この人たちに自分の等身大で返せることを一生懸命やっていこうと、その時に思いました」

★完璧求めてたけど

アニメ「鬼滅の刃」のオープニング曲「紅蓮華」が作品とともに大ヒット。「炎」が主題歌の「劇場版 鬼滅の刃 無限列車編」は、昨年公開の全世界の興行収入1位を記録した。国内外でブームとなったのも、愚直に、自らやファンを信じて歩んできた1つのご褒美だったのかもしれない。

「これまでもたくさんのアニメの主題歌をやらせていただきました。いろいろな方が熱量や愛情を込めた作品が、たくさんの人に見てもらえるようになった。そこに関われたというのは、自分の歩いてきた軌跡の先にあったものとしても、すごく幸せです」

ソロデビュー10年の節目を飾るのは、ミニアルバム「LADYBUG」。テントウムシという意味だ。

「私のアルバムは全部『L』から始まるという苦行を自分で決めていて…(笑い)。てん(10)で、とお(10)でどうだ! と。天に向かって昇っていく虫でもありますし、レディーがバグと、女性らしさみたいなものをはみだして、かっこいいこともやりたい、でも女性としてセクシーさや美しさも持ち合わせたいという、私自身のあり方とか願いも込めました」

B’z松本孝弘(60)がサウンドプロデュースを手掛ける「Another Great Day!!」(日本語訳で「今日もいい日だっ」の意味)、ゆず北川悠仁(44)作詞作曲の「ノンノン」など、多種多様な新曲7曲を収録した。

「一言で言うと、すごく“お強い”作品が作れたかなと思います。松本さんとのお話も、一生懸命走り続けてきた10年の節目に、ハードロックの神様との出会いが待っていました! ゆずさんもすごく好きで、いつかご一緒できたらいいなと思っていたタイミングでお声がけいただいて…。すごく“お強い”皆さんと、10周年だからこその7曲と出会えました」

★ヨガと「呼吸」で

体調管理にも気を使う日々。女性ソロ歌手の先輩で、同じハイトーンボイスの持ち主からも、アドバイスを受けたという。

「広瀬香美さんに『どうしてずっと高いキーで歌えるんですか?』と聞いたところ、『毎日歌うんだ』と。私の楽曲もすごく高いですし、テンポも速いので、それこそ60歳まで歌い続けられるのか? という不安はあります。でも、きちんと努力してやり続けていくということを自分で選びました。歌う筋肉は歌うことでしかつきませんし、毎日歌っています」

最近自宅でよく歌うのは、ビバルディの「四季」。なんとクラシックだ。

「自分の声がトランペットみたいなものだと思っているので、常に調整して、ちゃんと音に当てられるように…。その中でも、下から上まで使えるものとして『四季』は程よい!(笑い)。パソコンで楽曲を作られる方も多くて、楽器を弾いている感じで作られるので、対応していくためにも、楽器の旋律を歌うのは、ある意味発明かもしれません(笑い)」

ヨガをして、“呼吸”も整える。

「まさに鬼滅の“呼吸”ではないですが、呼吸は大事。全身にちゃんと行き届いてる感じがするので、すごく好きです」

LiSAがLiSAであるために。全てのことが歌につながっている。

「自分は、“LiSA”のためにしか頑張れないんだと、最近特に感じます。生活の中で感じること、素直に思えること、自分の“気”みたいなものは、すごく大切にしています」

10周年、さらなる高みを目指す。

「これまでも、たくさんの人に受け取ってもらえたらいいなとか、ドームでライブができたらいいなという目標の中で走ってきました。その途中で出会う子供たちだったり、世界だったり、作品がありましたので、これからも出会いを大切にしながら、作品にあった音楽、みんなの今日に寄り添えるような音楽を作っていきたいなと思います」

LiSAは「今日もいい日だっ。」と、いつまでも歌い続ける。【大友陽平】

▼LiSAに「紅蓮華」と「炎」を歌うコツを聞いてみた。

「『紅蓮華』は、本当は子供が歌うのは難しいんです。『<歌詞>どうしたって~』という気持ちになりますよね(笑い)。カラオケでも文字を見ながらでは歌えないと思うので、歌詞を暗記して、覚えることをお薦めします。『炎』はみんな『<歌詞>未来のために~』を歌いたくて歌っていると思うので(笑い)。そこにたどりつくまでの道を登っていると思って、頂上を目指して使い切らないようにしましょう」

▼LiSAが憧れ公私とも仲が良い歌手倖田来未(38)

LiSAさんはとっても勉強家で、倖田来未に対してのリスペクトを持ってくれていて、そして自分も成長したいという思いを持っている子だなと思います。以前食事に行った時やプライベートで連絡を取る時も、アーティストとしての相談をしてくれることが基本的には多いですね! もう1人妹ができたような感覚で本当にかわいくて、これから彼女がどんどん自分色に染まって成長していく姿が楽しみです。人を笑顔にしたり、勇気を与えられるアーティストに成長していくのかなと思うと本当に楽しみですし、私も負けていられないので、一緒に切磋琢磨(せっさたくま)できたらなと思います!

◆LiSA(リサ)

1987年(昭62)6月24日、岐阜県生まれ。10年、アニメ「Angel Beats!」の劇中バンドの2代目ボーカルとして注目され、11年4月、ミニアルバム「Letters to U」でソロデビュー。「Fate/Zero」など人気アニメの主題歌を数多く担当し、海外でもライブを行うなど活躍。19年、アニメ「鬼滅の刃」オープニング曲の「紅蓮華」が大ヒットし、同年末のNHK紅白歌合戦に初出場。昨年、「炎」が日本レコード大賞受賞。夫は声優の鈴木達央。血液型B。

◆「LADYBUG(レディーバグ)」

「Another Great Day!!」「ノンノン」のほか、映画「夏への扉-キミのいる未来へ-」(6月25日公開)主題歌「サプライズ」などオリジナルの新曲7曲を収録。発売中。

(2021年5月23日本紙掲載)