5組最長キャリアになった花組トップ、明日海(あすみ)りおが、主演作「宝塚舞踊詩 雪華抄(せっかしょう)」「トラジェディ・アラベスク 金色(こんじき)の砂漠」で、来年の東京宝塚劇場のスタートを飾る。1部は和物ショー、2部の芝居は異色の奴隷役でセンターに立つ。今年の漢字を「愉」、来年の抱負に「快」を挙げた。「愉快」を肝に花組、劇団を引っ張っていく。東京宝塚劇場は来年1月2日~2月5日。

 就任2年半を経ても、貴公子然とした爽やかさは健在。13日に同作で今年の兵庫・宝塚大劇場の上演を締めくくった。1年を振り返る1文字を問うと「愉」を挙げた。東京宝塚劇場では新年幕開け作。来年の抱負に「快」を掲げた。

 「ほんとに私が一番古い(笑い)。花組としても進化しているところを見せたい」

 古巣の月組では、新人時代に共演した珠城(たまき)りょうが、9年目でトップ就任。星組は、愛称が同じ「さゆみ」で1年先輩の紅ゆずるが次期に就く。

 「珠城りょうちゃんは、新人公演時代から貫禄があって、真ん中が似合う人。学年は若くても、渋い役も似合う。紅さんは私が『さゆみさん』と呼び、(紅は)『みりおちゃん』です」

 今回がトップ本拠地5作目。和物ショーで始まり、2部が古代世界の芝居だ。

 「和物ショーは初舞台(宝塚風土記)以来で、あの頃はお着替えも大変そうだな~と、眺めていただけ」

 昨年、芝居「新源氏物語」で和物は経験。明日海の光源氏は、圧巻の美しさで観客を魅了した。

 「ショーは美しさにこだわりたい。男性とは違う、ゆったりとした動き、足を割りすぎない。毛の長いかつら、扇子があれば、どう見えるか。けいこ場の時点から、着物をきれいに着こなす。下級生には、帯の幅はひとつ、意識を持ってほしいと言っています」

 ショーは四季をめぐり、明日海がタカにふんし、ワシ役の柚香光(ゆずか・れい)と戦う場面もある。

 「衣装、セット、曲の旋律にも美しさが追求されている。和服の、扇子の、木のにおいは心地よいです」

 自らを「香りフェチ」という明日海は、美意識と同じぐらい、嗅覚も研ぎ澄まされている。その明日海が芝居では奴隷を演じる。

 「アラビアっぽい衣装が多いんですが、いわゆる二枚目の宝塚ヒーローとは違い、屈折しています」

 今作で退団するトップ娘役、花乃(かの)まりあが王女にふんし、明日海はその王女に隷属。互いにあり得ない恋心を抱き、持て余すストーリーだ。

 「2人ともかんしゃく持ちで、だだっ子の極み(笑い)。お互いへの当てつけとして、事を起こして。王女さまは奴隷への思いと立場に苦しみ、私も自身への誇りと彼女への思いが…。『嵐が丘』のような情熱的で、激しい愛を出せたら」

 身分違いの恋に燃え、苦しむ。花乃との最後のコンビ作は難役になる。

 「今までになかったタイプの関係性ですので、今はけいこに集中して、話すのも舞台のことばかりで」

 ただ、ポスター撮影や、デュエットダンスのけいこ時にふと「最後だな」と感じるという。花乃の誕生日には、けいこ着を贈った。

 「でも、誕生日当日に忘れてしまい、次の日の朝に一番で渡しました。全然ダメですね、もっと大切にしてあげないと!」

 とはいえ、明日海の思いを受け取った花乃は感激しきり。「コンビとしての集大成を届けたい」。思いはひとつだ。【村上久美子】

 ◆宝塚舞踊詩「雪華抄(せっかしょう)」(作・演出=原田諒氏)「花鳥風月」。日本ならではの趣をテーマにした舞踊絵巻。初春の風情に始まり、夏、秋の月、雪が舞う白銀の世界から再び、桜舞う春へ-四季を追う日本物レビュー。

 ◆トラジェディ・アラベスク「金色(こんじき)の砂漠」(作・演出=上田久美子氏)架空の古代世界を舞台に、愛と憎しみをテーマに描く。自らの出自も知らない少年、ギィ(明日海りお)は、王女タルハーミネ(花乃まりあ)の奴隷として育てられた。常に王女の世話をしていた彼は、美しく傲慢(ごうまん)な王女に心ひかれ、王女もギィを憎からず思う。だが、王女の立場と誇り、ギィの矜持(きょうじ)がぶつかり合う。

 ☆明日海(あすみ)りお 6月26日、静岡市生まれ。03年入団。月組配属。08年「ミー&マイガール」で新人公演初主演。11年「アリスの恋人」でバウ単独初主演。12年、龍真咲の月組トップ就任にともない同準トップ。「ロミオとジュリエット」「ベルサイユのばら」で龍と主演役がわり。花組異動後の14年5月、同トップ。昨夏は台湾公演主演。身長169センチ。愛称「みりお」「さゆみし」。