4月期の春ドラマが出そろった。経済にテーマを絞ったテレビ東京の新枠や、時空を越えた捜査など、自由な発想の意欲作に見ごたえがある。プライム帯(午後7時~同11時)では苦戦が続くラブストーリーも、深夜帯ではひと工夫を加えた快作がカラフルだ。「勝手にドラマ評」34弾。今回も単なるドラマおたくの立場から、勝手な好みであれこれ言い、★をつけてみた(定期シリーズものは除く)。

**********

フジテレビ月9ドラマ「コンフィデンスマンJP」
フジテレビ月9ドラマ「コンフィデンスマンJP」

◆「コンフィデンスマンJP」(フジテレビ、月曜9時)長沢まさみ/東出昌大/小日向文世

★★★★☆

 だましのトリックを二重三重に仕掛け、悪いやつからお金をだまし取る信用詐欺師の痛快劇。天才肌でしぶとくてお金大好き。峰不二子みたいなヒロインを長沢まさみが大胆に演じていて、札束広げて「日当配りまぁぁす!」の血走った目にげらげら笑う。ジャズな世界観や、男連中が女に弱い哲学も初期のルパン三世っぽくて好感。もうちょっとこちらの予想の上をいくコンゲームのカタルシスがあるとうれしいのだが、「スティング」や「百万ドルを取り返せ!」と比較するのも野暮な話。リゾート開発、美術商などさまざまな業界のお金事情を1話完結で見せる古沢氏の手腕をぜいたくに楽しむ。テイストである茶番感を楽しめるかで好みが分かれそう。

テレビ東京ドラマBiz「ヘッドハンター」
テレビ東京ドラマBiz「ヘッドハンター」

◆「ヘッドハンター」(テレビ東京、月曜10時)江口洋介/小池栄子/杉本哲太

★★★★★

 「ガイアの夜明け」「カンブリア宮殿」のテレ東が、経済スキルをドラマに反映した新枠。第1弾は両番組の江口、小池、杉本が集結した豪華版で、敏腕ヘッドハンターの視点から「働く人々」のドラマを描く。人生の決断がある転職は人間ドラマの宝庫であるうえ、題材となる業界にも、転職業界にも詳しい日経グループの品質保証。1話は家電メーカーのエンジニア。特許や論文からたどる人材探しのいろはや生産ラインのつぶし方など取材力が分厚く、お勉強臭さの一線を越えない脚本林宏司氏のドラマ力にぐいぐいはまる。転職の救世主なのか悪魔なのか、油断ならない主人公も魅力的。ライバル小池栄子の切れ味もかっこいい。テレ東らしい挑戦。

フジテレビ系連続ドラマ「シグナル 長期未解決事件捜査班」
フジテレビ系連続ドラマ「シグナル 長期未解決事件捜査班」

◆「シグナル 長期未解決事件捜査班」(フジテレビ、火曜9時)坂口健太郎/北村一輝/吉瀬美智子

★★★★★

 別の時間軸にいる2人の刑事が、無線機でつながって長期未解決事件に挑む。時空を結ぶ無線機という設定の面白さがスリル満点で、こういう韓流はやはり面白い。1話、2話は95年の凶悪事件が時効となる1日の攻防。真っ赤な口紅の長谷川京子のサイコっぷりが極上で、頭脳フル回転の坂口との分刻みの心理戦に息をのんだ。過去から交信してくる大山巡査部長(北村一輝)。ありし日の人柄を丁寧に描いて愛着が持てるので、ここのSF感に不思議な説得力がある。三枝警部補(坂口)が過去に介入することで、結果が良くも悪くもなる。通信のワンチャンスをめぐる頭脳戦にわくわく。坂口健太郎はシリアスが似合う。今期イチオシのタイムパラドクス。

TBS火曜ドラマ「花のち晴れ~花男Next Season~」
TBS火曜ドラマ「花のち晴れ~花男Next Season~」

◆「花のち晴れ~花男Next Season~」(TBS、火曜10時)杉咲花/平野紫耀/中川大志

★★★☆☆

 花の4人組F4が卒業してから10年後の英徳学園。松本潤、小栗旬、松田翔太、阿部力の05年版に比べると今回のC5は華に欠けて見えるので早く慣れたい。1話は庶民狩りのくだりが普通に陰湿だわ、話が散らかってるわで困ったが、2話で見違えて面白くなってびっくり。ヘタレを財力で補うC5リーダー神楽木が音に恋してからぐっと話がまとまった。根はまっすぐな神楽木の魅力を平野が生き生きと演じ始め、浮世離れの全力ド天然がいちいち面白い。音の婚約者、天馬との三角関係も明確になり、ヒロインがタイプの違う王子様の間で揺れる少女漫画の王道がちゃんと来た。前作をヘンに神格化せず、堂々と新章を描いてほしい。

◆「正義のセ」(日本テレビ、水曜10時)吉高由里子/安田顕/三浦翔平

★★☆☆☆

 不器用な元気印キャラ、実家は庶民的な自営業、ヒールで走ってコケる、本気モードで髪を結ぶ。よくある設定と演出の寄せ集めに戸惑う。被疑者に挑発されて「ぜったいゆうざいにしてやる~」と激おこ、被害者の苦労話に同情して「あなたをしんじまぁす」とぐすん。絶望的に法律家の適性がなく、成長物語とはいえこのレベルからはしんどい。今どき職場で泣くヒロインとか、リアルとかけ離れたよちよち描写は勘弁してほしい。泣かずに踏ん張るヒロインの方が泣ける。家族と法廷ごっこしたり彼氏とデートしたりのシーンは、ごっそり要らない気がする。このテンプレ以外にも、吉高由里子はもっといろいろできる人だと思う。

テレビ朝日木曜ドラマ「未解決の女 警視庁文書捜査官」
テレビ朝日木曜ドラマ「未解決の女 警視庁文書捜査官」

◆「未解決の女 警視庁文書捜査官」(テレビ朝日、木曜9時)波瑠/鈴木京香

★★★☆☆

 文書解読のエキスパートが未解決事件を捜査。倉庫の魔女として頭脳だけで“安楽椅子探偵”をする文字フェチな鈴木京香と、手足となって現場を走るワトソンな波瑠のバディもの。文字から人物像や状況を暴いていく切り口が面白いので、原作通りに文字フェチが主人公で良かったのでは。W主演で波瑠をメーンにしていて、体育会系女子の空回り捜査に鈴木京香の文字の力が埋没しがちで気が散る。どんな役もこなす波瑠も、さすがに「自分は」と自分呼びするどすこいキャラは無理め。全体的に楽しめないわけではなく、普通。この2人をしっかり描いてくれればオールOKなのに、遠藤憲一や沢村一樹などとにかく豪華に集めすぎて画面が渋滞。

フジテレビ木曜劇場「モンテ・クリスト伯-華麗なる復讐-」
フジテレビ木曜劇場「モンテ・クリスト伯-華麗なる復讐-」

◆「モンテ・クリスト伯~華麗なる復讐~」(フジテレビ、木曜10時)ディーン・フジオカ

★★★☆☆

 中世フランスの名作を今の日本でどう描くのか注目したが、オープニングが「愛は勝つ」のフラッシュモブというカオス。この曲とセットでセンチな作風が進むのだとしたら、心躍る冒険小説を書いたアレクサンドル・デュマがあの世でキレないか心配。船が遭難→ヤバい手紙託され反逆罪→結婚式で逮捕→監獄島送り、という序章をそのまま日本の漁村で描いたのは「ここが大事」と「復讐が始まらない」で評価が分かれそう。初回視聴率5・1%は残念。今後は大資産を手に脱獄し、金にモノをいわせてあちこち復讐して回る流れ。純朴な青年からの十数年後、経済界での大変身は五代さまのディーン向き。ファリア神父に田中泯は神キャスティング。

日本テレビ木曜ドラマF「ラブリラン」(C)ytv
日本テレビ木曜ドラマF「ラブリラン」(C)ytv

◆「ラブリラン」(日本テレビ、木曜11時59分)中村アン/古川雄輝/大谷亮平

★★★★★

 3カ月分の記憶が欠落し、職場の後輩町田くんと身に覚えのない同棲をしていた地味系女子の驚愕ラブコメ。なぜか恋も仕事も大変身している自分との奮闘に、ドラマ初主演で一生懸命な中村アンがよく合う。つんのめったり煮詰まったりのカラフルな表情に笑わされ、「あなたなんて知らない」の悔し涙に泣けた。「俺は好きだったよ」の町田くんも最高。そっけない男の分かりにくい愛情を古川雄輝が体温のあるまなざしで見せてくれて、思いがスルーされるのもキュンとする。1度原作を分解して、エッセンスや人物の魅力を映像に再構築できている脚本。幼なじみ、元カノなど報われない関係がいくつもあり、切なさと成長がきちんとあるキラキラしたドラマは大好き。

TBS金曜ドラマ「あなたには帰る家がある」
TBS金曜ドラマ「あなたには帰る家がある」

◆「あなたには帰る家がある」(TBS、金曜10時)中谷美紀/玉木宏/ユースケ・サンタマリア/木村多江

★★★☆☆

 平成最後の「金曜日の妻たち」という触れ込みだが、いしだあゆみ、篠ひろ子、小川知子、古谷一行の魔性感にはほど遠いような。売りである“夫婦あるある”も「夫が洗濯物を取りこまない」とかいうレベル。原作は94年だった。お料理ベタとか週末の痴話げんかとかの古いテイストに、所帯臭さが漂わない中谷美紀&玉木宏が苦戦して見える。逆に、薄幸な木村多江の魔性感や、ユースケのホラーな隣人感はもはやネタの鉄板ぶり。夫へのあてつけで仕事復帰した中谷美紀の悪戦苦闘の方が見ごたえがあった。PDFを知らず、若手にお荷物扱いされ。復職ミセスがぶち当たる壁と悔し涙に新鮮なドラマがあって、こちらのあるあるの方に興味がある。

日本テレビ土曜ドラマ「Missデビル 人事の悪魔・椿眞子」
日本テレビ土曜ドラマ「Missデビル 人事の悪魔・椿眞子」

◆「Missデビル 人事の悪魔・椿眞子」(日本テレビ、土曜10時)菜々緒/佐藤勝利/木村佳乃

★★★☆☆

 人事の悪魔、椿眞子の働き方改革。新入社員を肉体的、精神的に追いつめる過激なパワハラ描写。見る人を異論暴論で張り倒してラストに着地する「女王の教室」のテイストで、会社と対等となるために死に方(退職願の書き方)を学べとか、よくしっぽを振る人間も組織には必要とか、挑発の中に真理あり。首切り部署の人材活用ラボが発足した2話からは、ちょい辛の「ショムニ」っぽい。大河ドラマで新境地をみせた菜々緒にまた悪女役は新鮮味に欠けるものの、ファッションと美しい回し蹴りは目を見張る。菜々緒にネクタイつかまれ、ガン飛ばされ、恐怖の壁ドンされる佐藤勝利くん。振り回されるフレッシュマンを上手に演じ、応援しがいがある。

テレビ朝日土曜ナイトドラマ「おっさんずラブ」
テレビ朝日土曜ナイトドラマ「おっさんずラブ」

◆「おっさんずラブ」(テレビ朝日、土曜11時15分)田中圭/吉田鋼太郎/林遣都

★★★★★

 おっさんがおっさんに恋をし、おっさん同士でおっさんを取り合う剛速球ラブコメ。一昨年の単発ドラマが好評で、わずか16カ月で連ドラ化。ヒロイン吉田鋼太郎。営業所での圧倒的なダンディズムと、はるたん(田中)に恋する乙女心をフルスイングしていて、シェイクスピア俳優の快刀乱麻に腹抱えて笑う。弁当だ交換日記だといじらしく、バラの花束で「好きでーす!」の純愛が食い気味に瞬殺されて泣けた。後輩社員林遣都との三角関係も王道。主人公のてんてこ舞いを田中圭があれもこれも受けきって笑わせ、極上のラブコメに落とし込む主演力。自信もって挑戦する若手制作陣がすごい。男性視聴者には全然刺さっていなさそうなのも乙。

◆「ブラックペアン」(TBS、日曜9時)二宮和也/竹内涼真/内野聖陽

★★★★☆

 海堂尊氏の小説をドラマ化。大学病院の権力闘争と、出世に興味のない天才外科医のある思惑。「1000万でもみ消してやるよ」。腕を武器にした大胆不敵な渡海先生を二宮和也がダークな魅力で演じ、プライドとヒールの境界線でいい鼻っ柱。1話は心臓祭り。時間勝負のオペでの怒鳴りまくりに、命にだけはまじめな本質がにじむ。1億払い終えるまで人生を握られた世良先生(竹内涼真)は気の毒だが、この人の下で学べるなら1億は安い。原作では脇役の渡海先生を主人公にしたことで、佐伯教授(内野聖陽)との単純ではない話と、ブラックペアン(止血用鉗子)の意味があざやかに効いてきそう。私も渡海先生に「じゃま」と言われたい。

◆「崖っぷちホテル!」(日本テレビ、日曜10時半)岩田剛典/戸田恵梨香

★★☆☆☆

 ホテルや旅館の再建モノは「高原へいらっしゃい」(76年)の昔からある人気の題材。山田太一や三谷幸喜ら先人のフォーマット通りに普通に作っていればある程度の水準まではいくはずだが、集めすぎた吉本枠にギャグの場を提供するのに忙しい。厨房、フロント、事務所などいろんなところでしっちゃかめっちゃかに話が進み、本線がよく分からなかった。2話で視聴率が一気に4・5%減。制作の責任は重い。岩田剛典の演技力がどうだろうと、主演にした以上、この人をもっと動かして従業員とかかわらせ、この人を中心にした職場の成長物語を描くべき。というか、菜々緒が来て片っ端からリストラした方が早いと思う。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)