「有吉の壁」(C)NTV
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今、“芸人が最も出たい番組”といわれる日本テレビ系「有吉の壁」(水曜午後7時)。クイズやひな壇トークとは一線を画す純度100%のお笑い番組を貫いており、志と爆笑名場面の山にギャラクシー賞も贈られた。総合演出の橋本和明氏は「見捨てられ始めたテレビに、もう1回お客さんを呼ぶ勝負をしている」という。

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■ギャラクシー賞に動揺

5月のギャラクシー賞の際には、番組公式ツイッターが「想定外すぎてスタッフ一同動揺している」。実際、お祝いの叙々苑弁当をとにかく明るい安村の楽屋にだけ入れ忘れる“動揺”ぶりもSNS上で話題になった。

橋本氏は「なんで? と思いましたから。局長から『受賞の理由は何ですか』とメールが来たくらい」と笑う。「なんだかんだ芸人さんたちが喜んでくれたのがうれしかった」とし、「子どもさんや若者層の人気はありがたいのですが、50代以上の視聴率が地をはっているので、大人にも評価されたこの機に『中高年以上でも見ていい番組ですよ』とアピールしたい」と話す。

番組のテーマは「有吉を笑わせる」というシンプルなもの。「一般人の壁」では毎週30人ほどのお笑い芸人がロケ地(遊園地、ショッピングモール、学校など)を自由に使い、即興ネタを繰り出していく。クイズでもひな壇でも食リポでもない、本業のお笑いの場を得た芸人たちが生き生きと持ち味を発揮。シソンヌ、ジャングルポケット、パンサーらさまざまな芸風が笑いを競い、とにかく明るい安村のように、この番組から再評価されている人材にも勢いがある。

橋本氏は「芸人にとって、ひな壇トークにたけていることが唯一の正解じゃないということを示している座組みだと思います。ユーチューバーがエリート会社員より稼いでいたりする時代に、笑わせ方も勝ち方も1個じゃない」。

「有吉の壁」(C)NTV
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■スポーツマンシップの幸福感

ひな壇向きではないコント職人にとって「ネタはお任せ。何個やってもいいが結果は自己責任」という場は打ち込みがいがある。「ウケなければ本気で反省会になり、面白ければライバルのネタでも笑ってしまう。スポーツマンシップの幸福感があるんですよね」。中堅も第7世代も同じ土俵で戦い、持ち寄ったネタでユニットも組む。「今の若い芸人さんはとにかく人を笑わせることにストイック。そういうパーソナリティーの変容も、この番組に合っていると思います」。

「有吉の壁」(C)NTV
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深夜の不定期番組として5年間で13回放送され、4月からいきなり水曜7時のレギュラーになった。「1度もその枠で試したことがないのにバカなの? と思いました」と笑いながらも「有吉さんが『機運なんでやりましょう』と。有吉さんが腹をくくったなら、制作が逃げるわけにはいかない」。

深夜からゴールデンに進出した結果、番組の個性が失われていくのはよくある話だ。「中身を変えなきゃいけないなら介錯(かいしゃく)してほしい、ばっさりやめさせてほしいと偉い人には言いました。クイズやトークで続ける気は最初からないです」。背景には、テレビ離れへの深刻な危機感がある。「テレビが見捨てられ始めて、テレビを持っていない若者も多い。つけたら何かわくわくするものをやっているのがテレビだったのに、横並びで期待値を放棄したら未来がない。もう1回テレビにお客さんを呼ぶ勝負を、この番組でしたいんです」。

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■コロナ禍にスタートした運命

振り返れば、番組スタートは緊急事態宣言の翌日(4月8日)。ロケ番組として最悪のタイミングだったが、収録済みの素材や、リモートを巧みに利用した「おもしろ自宅公開選手権」など、工夫を凝らした笑いを届け続けた。トークバラエティーの多くが立ち往生した中、お笑い純度100%の強度を知らしめることにもなった。「テレビを見た時くらい、何も考えずに笑いたいじゃんという時期にスタートしたのは運命。僕らにできることは何だろうと考えています」。

今や“芸人が出たい番組”であると同時に、“テレビマンが関わりたい番組”にもなっているようだ。有吉の注文を受けてネタを配達する「カーベーイーツ選手権」は、2年目のADが出した企画という。「何がすごいって、その人は『ヒルナンデス!』の担当で、『壁』のスタッフではないんですよ。なのにリモート会議に勝手に入ってきて、企画出して、実現させて。こういうのがやりたくてテレビ局に入りました、みたいな人たちが集まってくれていて、そういう熱量は画面に出るのだと信じています」。

◆きょう26日の「有吉の壁」は、「夏祭り2時間SP」を放送。閉園直前のとしまえんで芸人たちがネタを競う「さよならとしまえんSP」のほか、ひどすぎるものまねに(秘)ご本人が登場する「ご本人登場選手権」が久々に復活。ほかに、パーカーJr最終章となる「ブレイク芸人選手権」、夏祭り新企画「おもしろ屋台選手権」など。出演はMC有吉弘行と佐藤栞里のほか、約30組のお笑い芸人さんたちが登場する。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)