長渕剛(58)が、8月22日夜から静岡県富士宮市の富士山麓で開催する「10万人オールナイト・ライヴ2015 in 富士山麓」。この一大イベントに向け、さまざまな角度、証言から連載する。

 10万人ライブの会場となる富士山麓のふもとっぱらで、巨大なステージの設営が着々と進んでいる。左右対称に裾野を広げる霊峰・富士を思わせるステージは、見る者を圧倒する。その後方に、富士山がそびえ立つ。長渕が、炎となる場である。

 本番4日前の18日。会場で仏式の地鎮祭が営まれた。長渕の故郷・鹿児島県日置市に隣接する、いちき串木野市の高野山真言宗「冠嶽山鎮国寺」の村井宏彰住職(66)ら僧侶2人が招かれた。関係者を通じて、長渕は約1年半前に村井住職と出会った。

 同寺は、薩南屈指の霊山と言われる「冠嶽(かんむりだけ)」の山麓に建つ。約2200年前、秦の始皇帝の命を受け、不老不死の霊薬を求め、たどり着いた学者・徐福が、自身の冠をこの山に納めたことが「冠嶽」の由来と言われる。

 親交を得た長渕は約8カ月前、帰郷し、富士山ライブの話を村井住職にした。すると「何百人のスタッフがいるか分かりませんが、ひとつの炎にならないとできないですね」と言われた。感銘を受けた長渕は、地鎮祭を願った。

 地鎮祭には、長渕はもちろん、キーボードのローレン・ゴールドら日米混成のバンドメンバー、会場にこの日いたスタッフ約500人が参列した。村井住職はすべての人を前に「ここ(富士山麓)は神様、仏様のもの。その地で、その空気を吸うことは命を吸うこと。そして霊峰富士の気高さを、命とともに(自分の中に)収めること。感謝して、きれいにお返しすることを忘れずに」と話した。

 長渕は「命を吸えという言葉が、鮮烈に刺さりました。我々はさらに炎となり、燃えたぎって行こうと思った」と話した。

 村井住職が約30年前に「冠山人」の名で詠んだ歌がある。

 徐福立ちし この頂きに君も立ち はるかに望め 国の行く末

 自己中心的ではなく、国のこと、世界のことを、視野を大きく持って、考えてほしい、の意味である。

 長渕はかつて富士山ライブについて「隣で何か起きていても知らんぷりをしている、今のこの国の社会がある。本当に正しいことに対して、1人では立ち向かえないから、仲間と一緒に横一線でゆっくりとほふく前進して行くことが、明日へ続いていくのだと思う。俺たちは仲間だろうという強い連帯を結びたい」と話した。国の行く末を憂える気持ちは強い。その場に、日本の象徴でもある富士山を選んだのだ。

 長渕は炎となる。デビュー前、客がいない福岡のライブハウスで、掃除のおばさん1人に歌を聴いてもらった。「あんた、いつかスーパースターになるけん」と言われた。それから約40年。富士山に10万人を集め、巨大ステージに立つ歌手になった。だが、熱さは何も変わっていない。

 23日夜明け。ステージ右後方から朝日は昇る。炎のように輝く太陽を、長渕が引きずり出す。(おわり)【特別取材班】