俳優柄本明(71)が4日、都内の浅草九劇で、5、6日にオンラインで有料配信上演する、ひとり芝居「煙草の害について」のゲネプロを行った。

柄本は、18年の主演舞台「誰もいない国」以来2年ぶりの舞台、しかも初挑戦となるオンラインでの舞台上演を前に「挑戦なんていう気持ちは、サラサラない。どちらにしろ(目前に)お客さんがいないだけの話。舞台でやることは一緒」と笑みを浮かべた。

新型コロナウイルスの感染拡大の影響で演劇界も公演の中止、延期が相次いでいる。そんな中、配信で公演を展開する製作者をサポートしようとリニューアルされた、浅草九劇の第1弾公演に選ばれたが「+αは、な~んにもないです」と笑い飛ばした。

東京都は5月24日に緊急事態宣言が解除されたが、世の中には自粛ムードが漂う。柄本は「文化、芸術はやはり生きもの。ご飯と違うから、絶対に不要不急のものというのとは違うけれど、ものすごく必要。文化、芸術が死ぬということは、人間が死ぬということと同義だと僕は思う」と語った。

俳優やエンターテインメントの今後について、どう思うかと問われると「分からない。我々も、まだ先が見えないというのが大変、苦しいこと。でも、オンラインという知恵も出てくる」と語った。そして「コロナ禍の中で、こういうことになっているけど、舞台は基本的にやる人がいて、見る人がいて、生まれる空気を楽しむもの。家から劇場に来て、ロビーに入っていくのも含めて演劇だから。オンライン(上演)では、それは分からないし、どうしたって異なるものだけど、手段として、しょうがないでしょう」と吐露した。

その上で「客は少なくても、ちょこっとでもいた方がいい。ゆるやかな段階で、だんだん劇場に観客が増えていくのではないか、という気がしています。オンラインで見ていただいて、面白ければ劇場が再開したら来ていただきたい」と、今回の取り組みが、コロナ禍が収束した先に、舞台が少しずつ復活していく段階へ向け、新たなファン層をつなげていくきっかけになることが狙いだと語った。

「煙草の害について」は、ロシアの劇作家アントン・チェーホフの戯曲で、76年に劇団東京乾電池を結成し、座長を務める柄本が1993年(平5)初めてのひとり芝居の試みとして自ら構成、演出、上演した。劇団東京乾電池は、チェーホフの4大戯曲「かもめ」「ワーニャ伯父さん」「三人姉妹」「桜の園」を、柄本の演出で上演した経緯があり、柄本は上演時間20分程度の短編の「煙草の害について」に、他のチェーホフ作品のエッセンスや時事ネタを交えるなどして約1時間のひとり芝居を作り上げた。

ユーモアとナンセンスと人間味があふれる作風が各所で話題を呼び、全国で相次いで上演され、03年6月には、チェーホフの母国ロシアでも首都モスクワ、サンクトペテルブルク、サマラ、オムスクで上演。17年4月に劇団東京乾電池が「創立40周年+1公演」として東京・明治座で初めて公演を開いた際も演目の1つになった。

柄本は壇上で、うたと講演の夕べを開くマルケーシャ・イワノヴィチ先生を演じた。聴衆に向けて、タバコの害や妻への愚痴を延々と語る中、上着の左胸のポケットから「コロナのバカ」と書かれた布を取り出すなど、時事ネタを織り込んだ内容に、取材で観覧した記者からも笑いが起きた。【村上幸将】