「ゴルゴ13」で知られる劇画家さいとう・たかを(本名・齊藤隆夫=さいとう・たかお)さんが24日午前10時42分、膵臓(すいぞう)がんのため亡くなった。84歳。

29日に小学館「ビッグコミック」編集部とさいとう・プロダクションが連名で発表した。葬儀は親族で行った。「自分抜きでも『ゴルゴ13』は続いていって欲しい」という遺志を継ぎ、連載はスタッフと編集部が協力して継続予定で、同誌11月5日発売号から新作掲載を再開するという。

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7月5日発売の201巻が「最も発行巻数が多い単一漫画シリーズ」としてギネス世界記録に認定された際に「体力が持つ限り描き続けたい」と意欲を見せた、さいとうさんが逝った。9月20日に202巻が発売されたばかりだった。加藤勝信官房長官は、この日の会見で弔意を示した。

映画好きだったさいとうさんは、手塚治虫さんの「新宝島」(47年)を読み、漫画に興味を持った。1955年(昭30)に「空気男爵」でデビューし、大衆漫画や雑誌を貸し出す貸本向け漫画誌の中心的な存在として大阪で精力的に活動。59年1月に漫画家グループ「劇画工房」を結成も翌60年に解散。同年4月に活動拠点を東京・国分寺市に移し「さいとう・プロダクション」を設立すると「台風五郎」が大ヒットした。

そして68年11月29日発売の「ビッグコミック」69年新年1号から、国籍不明の超A級スナイパーのデューク東郷の活躍を描く「ゴルゴ13」の連載を開始した。「子供向けの漫画が主流だった時に、編集部から『大人が読むに耐えられる主人公で作品を作って欲しい』と言われて連載が始まりました」と振り返ったように、大人も読める新ジャンル「劇画」を確立した。

「開始時に最終回のコマ割りまで考えていて10話で終わるつもりだった」連載は、今年で54年目と長期に及んだ。脚本部門を設けるなど制作過程を分業化しつつ、自ら指揮し構成、作画、脚本まで担当した。シナリオ制作には直木賞作家の故船戸与一さん、故小池一夫さん、井沢元彦氏ら作家をはじめ50人以上の脚本家が協力し国際情勢など時事ネタを盛り込みリアリティーを追求。ギネス記録対象の201巻に収録の「-最終通貨の攻防」は昨今、利用が進む仮想通貨システムを盛り込んだ。寡黙で超人的な能力、狙撃技術で任務を遂行する一方、女性と逢瀬(おうせ)を重ねるデューク東郷の人物像もロマンを追う男性に支持された。

コロナ禍が悪化した昨年5月から6月まで、10人超と多くのスタッフが長時間、密集して作画するため“3密”を避けられないと、初の休載も経験したが乗り越えていた。関係者によると、10月25日発売のビッグコミックは追悼記事と、過去作80ページをアンコール掲載し、11月から、さいとうさんの遺志を継ぐ新作が再開する予定だ。「ビッグコミック」は公式ツイッターで「………だが、物語は続く。」と不滅を誓った。

◆さいとう・たかを(本名・齊藤隆夫)1936年(昭11)11月3日、和歌山県和歌山市生まれ。代表作に「鬼平犯科帳」「仕掛人藤枝梅安」など。「ゴルゴ13」で75年に第21回小学館漫画賞、02年に第31回日本漫画家協会賞・大賞を受賞。03年に紫綬褒章受章。04年に再び「ゴルゴ13」で第50回小学館漫画賞審査委員特別賞受賞。10年に旭日小綬章受章。19年には名誉都民。同年に第23回手塚治虫文化賞特別賞を受賞。社団法人日本漫画家協会理事。

◇ゴルゴ13の主な名言

▼おれのうしろに音もたてずに立つようなまねをするな…おれはうしろに立たれるだけでもいやなのでね…

▼“利き腕”を人にあずけるほど、俺は“自信家”じゃない…だから握手という習慣…も俺にはない。

▼俺は…この目で見た事しか、信用した事がない…

▼…10%の才能と20%の努力…そして、30%の臆病さ…残る40%は“運”だろう…な…

▼普通の世界なら未熟は恥じる事ではない…だが、俺たちの世界では、未熟な者に、“いつか”は決して訪れない…